イベントレポート

地域コラボレーション2021.01.21

日ノ出町

【地域コラボイベントレポート】Art TO Eat「かくれ場のピクニック」新たな世界の輪郭の発見

▼当日の様子はこちらをクリックすると映像でご覧いただけます。

去る1213日、京浜急行電鉄株式会社主催で、プランナーの伊藤幹太さん(YADOKARI株式会社)を中心に、高架下の事業者と連携しながら、食とアートを交差させたイベント『Art TO Eat「かくれ場のピクニック」~世界の輪郭をなぞる、高架下スペシャル食体験~』が開催されました。

アートによるまちづくりが進められている黄金町・日ノ出町・初音町エリア。近年では食のプレイヤー、クリエイターがこのエリアに増えつつあります。そんな彼らがコラボレーションを行い、新たな街の表現や文化の創出となることを目指します。

今回は黄金町ゆかりのアーティストであるHidemi Nishida さん、「日ノ出町フードホール」内にご出店されている、クラフトビールキッチン『しっぽ団「CraftBeer & SakeRa-men & OshiSushi」』の麻生達也さんとのコラボレーション。

 

〈Photo02〉左からアーティストのHidemi Nishida さん、しっぽ団の麻生達也さん、YADOKARIの伊藤幹太さん

 一体、今回はどのような食とアートの化学反応が生み出されたのでしょうか。

■スペシャルフードを手に向かう先は……

この日、参加者は日ノ出町駅~黄金町駅間の高架下にある複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」で受付を行ったあと、日ノ出町フードホールへ。

「しっぽ団」でスペシャルフードを受け取ります。

 

〈Photo03〉しっぽ団CraftBeer & Sake、Ra-men & OshiSushi / RotoBrewery

 どのようなスペシャルフードかというと……なんと、「猪と駝鳥(ダチョウ)の滋養ラーメン」!

 監修はしっぽ団CraftBeer & SakeRa-men & OshiSushi / RotoBrewery オーナーの麻生達也さんです。

〈Photo04〉「猪と駝鳥(ダチョウ)の滋養ラーメン」

 山で暮らしていた野生の猪たちが食材を求めて街に下り、農作物を食べます。その「害獣」の対処方法として広まりつつあるのがジビエ文化。味わったことがあるという人も多いのではないでしょうか。

 野生の動物たちは山や地域によって食べているものが異なるので、脂の量や味にも差が出るのだそう。今回は、静岡県伊豆周辺で狩猟された野生猪の背骨が使われています。

 そしてもうひとつ、使用されているのがなんと、駝鳥(ダチョウ)です。駝鳥は少ない飼料でも生育が早く、菌への耐性も高いので、海外ではポピュラーな飼育動物なんだとか。

食べる行為は「その世界を体に取り込む」という意味を持っているのだそう。普段は野生のものと飼育されたもの、どちらを多く食べているのか、どちらの世界を取り入れているのかを振り返ってみるのも良さそうですね。

そして、野生の猪と飼育された駝鳥のラーメンを食べる場所は、現代から野生へと変換された空間「かくれ場」へ。 

〈Photo05〉「かくれ場」

 一見、何の変哲もない高架下の工事現場、のように見えますが……

〈Photo06〉「かくれ場」の空間内

 中は、加工木材や発泡スチロール、ビニールと言った簡単に手に入るもので作られた空間。この場所を手掛けたのが黄金町ゆかりのアーティストであるHidemi Nishidaさんです。

〈Photo06〉Hidemi Nishidaさん

 日常のありふれた素材を使って文明と呼ばれている環境を再び野生へと変換。よく知っている文明社会が「外界」となり、薄いビニールの被膜の内側が身を隠す「内部」になります。

〈Photo07〉「かくれ場」の空間内

 参加者は用意されたパネルを自由に使い、思い思いの「かくれ場」を見つけてラーメンをいただきます。

〈Photo08〉「かくれ場」の空間内

 「かくれ場」をどのように使うかは参加者次第。クリエイティブな感覚をかきたてられるだけでなく、くつろぎ方も人それぞれでした。

■アートに触れるきっかけに

〈Photo09〉パネルの使い方も無限大。 

 こちらのグループはパネルを使用してしっかりとしたテーブルを作成。ビニールの上に腰を下ろし、まるでおうちのリビングのような雰囲気です。

 参加者の女性「誘ってもらったから参加しようかな、という軽い感じだったんですけど、実際に来てみてすごく楽しかったです。ビニールの感じとか、子ども心をくすぐられるというか、すごく好きだな、と思って。小さいころに、毛布とかを使って自分でかくれ家を作ったりしたことを思い出しました。あと、自分でも(パネルを使って)作れるのが楽しいですよね」

参加者の男性「おもしろくて、空間のいろんな場所が気になってきますね。いろんなところに『こんなものがあったんだ!』『こんな空間があるんだ!』と驚かされてめちゃくちゃ楽しめました」

■予想外の空間に驚きも!

〈Photo10〉親子で参加 

ご家族で参加した娘さん「高架下ってあまり普段体験しない形だったので、とても楽しいです。想像しないような場所だったので、空間としてただただすごいな、って」 

ご家族で参加した女性「いつも休みの日はおもしろいところに娘と食べに出掛けているんですが、ただおいしいものを食べるだけではつまらないな、って。アートとイートの組み合わせってありそうでないし、『Art TO Eat』という響きに誘われて参加しました。まさかスペシャルフードがラーメンとは思わなくてびっくり(笑)おいしかったです。思っていたアート空間とは違っていて衝撃でした」

〈Photo11〉参加者の女性

 

参加者の女性「Tinysのイベントはよくチェックしていたんですが、今回はしっぽ団のラーメンが好きなのと、Nishidaさんに一度お会いしたことがあったので、気になって参加してみました。

ラーメン、おいしかったです! お店に出すものとは違ってまた新しい味が楽しめましたし、猪の肉と駝鳥の組み合わせは生まれて初めてでした。駝鳥がさっぱりしていて、好みの味でした。

どういうものがあるのかな、と想像していた空間とは違って。すごい光があって明るいし、かくれ場と言ってもあったかくて心地よいな、と。参加するのは2回目なんですけど、毎回違っていて、また参加したいな、と思いました」

■『かくれ場』の素材を使って楽しむ

 

〈Photo12〉木材とビニールを組み合わせて更なる「かくれ場」を制作!?

 「かくれ場」にある木材やビニールを活用し、独自の楽しみ方をしていたカップルも。木材の組み立て方に苦戦しながらも楽しそうです!

〈Photo13〉今回は彼女に誘われての参加 

参加者の女性「アートに関心感心があるので(彼を)誘ってきました。ずっと風の通り道を観ていたんですけど、人工的なものも、風によって形が変わったりしておもしろいな、って思いました。

余白があるのがいいね、という話をしていて、自分たちで考えて遊べる感じがすごくいいね、って」

〈Photo14〉見上げると空間の印象が変わります。

参加者の男性「パネルがすごくあったかくて、これは寝られるね、ってラーメンを食べたあとは自分たちでベッドを作って寝ちゃいました。目を閉じたら、ビニールの音が草の揺れる音に聞こえてきて、自分が大草原にいるような感覚になってそれがおもしろかったですね。

自由に過ごしていいよ、ということで他の参加者の方も全然違うじゃないですか。それを見ているのもおもしろかったです」

 ■新たなアートの気づきにも

〈Photo15〉参加者の男性

大学院で建築を学んでいるというこちらの男性は、Nishidaさんの作るアート空間に興味を惹かれて参加したのだそう。

「都市の中で野性的に自分の場所を見つけるというのは共感しますし、近代的な社会の次を考える上ですごく大事だな、という気がしました。

昔は土とか石で建物を作ったのが野生で、当時はそれしかなかったからそれで作った。でも現代はなんでもネットで取り寄せられる時代に、あえてこういうホームセンターで買えるものを使ったのはどうしてなのかNishidaさんにも質問させていただいたんですけど、『量産されているものを使うということに意味があって、量が多すぎてもはや地球上の資源と同じなんじゃないか』って。薄いベニヤとか、ほぼ無限って言えるぐらいに作られている。量が大事っていうのは確かにそうだなあ、と思いましたね。視点や、考え方がすごく勉強になりましたね。自分の手で空間を作るというのもやってみたいな、と思いました」

 ラーメンを食べ終えたあとも、「かくれ場」内を探索したり、パネルを使って新たなアートを生み出したり、ゆっくりとくつろいだり……とそれぞれがいろんな場所で楽しむ姿が見受けられました。

 ■賑わう休日の大岡川沿い

〈Photo16〉盛況な会場内。

 この日は黄金町クリスマスパンマルシェも開催されており、シュトーレンを始めとしたクリスマス商品のほか、たくさんのパンが訪れた人を楽しませました。

〈Photo17〉ノ出町フードホールのテラススペースもマルシェ会場に。

 日ノ出町フードホール内の各店舗からのオススメ商品もテラススペースに並べられ、地元のこだわり旬野菜や自家製ジャムなどと言ったラインナップがずらり。

〈Photo18〉mizube barでコーヒーを楽しむ人たちの姿が。

また、Tinys Yokohama Hinodecho前の川辺には、日本大学理工学部海洋建築工学科の親水工学研究室による「mizube bar」が設置されました。mizube barは、川辺や海辺に設置されている防護柵などをカウンターバーとして活用する空間装置です。

▼mizube barについてはこちら
https://culture.yokohama/event/621/

 この日は、12月ながらも暖かな陽気で、ドリンクを飲みながら、大岡川でSUPをしているサンタさんたちを眺める人が多くいました。

 

〈Photo19〉参加者もサンタ帽をかぶって。

さまざまな人が行き交う大岡川沿いは穏やかながらもにぎわいのある休日となっていました。

■アートに触れて、体験することで始まる世界

〈Photo20〉思い思いに過ごす参加者のみなさん

「かくれ場」というキーワード、そして自由に使える素材を手に、参加者のワクワクとした表情がとても印象的だった今回のイベント。どこか不自由さを感じる今だからこそ、解放的な空間で生まれる思いや感情もあったのではないでしょうか。

現代の文明的環境から、野生への変換を現した今回のアート空間。野生的なスペシャルフードを味わいながら、これまでにない発見と、自然の音や空気を感じることができたはず。再び野生に返った空間から、また新たなものを作り出すスタート地点に立てた1日となったのではないでしょうか。

▼本イベントの概要はこちら
https://culture.yokohama/event/912/