イベントレポート

地域コラボレーション2020.12.09

日ノ出町

【イベントレポート】\Art TO Eat/ Appreciation of the individuals “ひとり”のお祝い

\Art TO Eat/ Appreciation of the individuals “ひとり”のお祝い

▼当日の様子はこちらをクリックすると映像でご覧いただけます。

 アートによる街づくりが行われている黄金町・日ノ出町・初音町エリア。アーティストインレジデンスを行うこの街では、多くのアーティストが制作活動を行っています。加えて、魅力的な飲食店が多いのもこの街の特徴。2020年3月には、日ノ出町・黄金町駅間の高架下に、個性的な4店舗が集まったコミュニティ型の飲食施設「日ノ出町フードホール」がオープンしました。盛り上がりを見せているこの街のアートと食。その双方をかけ合わせたイベントが「Art TO Eat(アートとイート)」です。Art TO Eatでは、プランナーの伊藤幹太さん(YADOKARI株式会社)が食とアートにまつわるにゲストと共に、普段のアート鑑賞や日々の食事よりももう1歩深い、アート体験・食体験を提供しています。今回は、去る10月24日(土)に開催された「Art TO Eat  Appreciation of the individuals ”ひとり”のお祝い」の模様を、当日の街の賑わいと併せてお伝えします。

Art TO Eat 前回のイベントの様子はこちら

https://culture.yokohama/event/716/

〈Photo02〉三輪さんの展示作品 毎日の出来事を粘土で表現した三輪さんの作品

Appreciation of the individuals ”ひとり”のお祝い

 Art TO Eat、今回のテーマは「Appreciation of the individuals ”ひとり”のお祝い」。ゲストアーティストは、2018年より黄金町でレジデンスアーティストとして活動し、「”個”の祝福」をテーマに、彫刻、インスタレーション、ドローイングなど、様々な手法で作品を展開する三輪恭子さんです。三輪さんは、「時と共に過ぎ去ってしまうものをなんとか残したい」という思いから、自分の記憶、そして自分が大切に思っている人のかけがえのない記憶を形にしようと奮闘し、作品創りを行っているそうです。

〈Photo03〉Farm Deli & Bar by yokohama vegemate project

 ゲスト料理人は、日ノ出町フードホールにある「Farm Deli & Bar by yokohama vegemate project」(以下、Farm Deli & Bar)のマネージャー・小出このみさん。Farm Deli & Barは、農薬や化学肥料に頼らない自然循環型の農業をしている横浜市内の農家が集まったチーム「ヨコハマベジメイトプロジェクト」初の直営店で、畑から届いた新鮮な野菜の味を楽しめる野菜料理の専門店です。

〈Photo04〉左から小出さん、三輪さん、伊藤さん

 おふたりをゲストに招いた理由を、プランナーの伊藤さんはこう語ります。

伊藤さん「個をテーマにしている三輪さんと、農薬や化学肥料に頼らず一人で力強く生きている野菜に共通点を感じました。オーガニックの野菜は平和的に捉えられることも多いけど、育つ環境を見るとすごく過酷で、自分たちの力で生き抜かないといけない。そういう環境で野菜は頑張って生き抜いてきているので、1人力みたいな視点で、2人はすごく相性が良いと思いました。」

オンライン×オフラインコンテンツで開催!

 こうして「個」をテーマに集った3人で展開された今回のイベントは、感染症対策も考慮し、オンラインとオフラインの4つのコンテンツを組み合わせて開催されました。

 最初のコンテンツは、オンラインアーティストトーク。参加者の方は、申し込み後に送付される3人のトーク動画を、イベント当日までに各自好きなタイミングで視聴します。動画には、伊藤さん、三輪さん、小出さんの自己紹介、三輪さんの創作活動についてのトーク、イベントテーマである”ひとり”についてのディスカッションが収められていました。

 2つ目のコンテンツは、Stay Homeワークショップ。アーティストトークと同様、参加者の方には、事前にオンライン型ワークシートのURLが送付されます。「”ひとり”を確かめる」というテーマで問いが設定されたこのワークショップでは、それぞれが”ひとり”を感じる場面を思い浮かべながら、➀場所、➁時間や季節、➂そのとき見たもの、➃そのとき感じたもの/今思うことの4つの問いに回答します。”ひとり”を感じる場面をできるだけ具体的に思い浮かべて、それぞれが感じたイメージを自由に言語化していく作業です。回答を送信したら、Stay Homeワークショップは完了です。

「”ひとり”をお祝いする」スペシャルランチイベント

〈Photo05〉参加者に配布された冊子

3つ目は、メインコンテンツのスペシャルランチイベント。イベント当日の10月24日にTinys Yokohama Hinodechoに足を運び、「”ひとり”をお祝いする」がテーマの、あなただけのスペシャルランチを創ります。

参加者の方はまず、数人1組で会場に案内され、小さな冊子を受け取ります。冊子の中には、白い台紙にポツリポツリと浮かび上がるように参加者全員のワークショップの回答が記されています。

〈Photo06〉ワークショップの様子

 参加者の方は冊子に目を通した後、自分が回答した「”ひとり”を感じる瞬間」について、伊藤さん、三輪さん、そして他の参加者の方にシェアします。口にすることでより自分の感覚が明確になるのはもちろん、他の方の考えを聞くことで、より”ひとり”への理解が高まっているようでした。

 このワークショップで面白かったのは、”ひとり”という状況に対する感覚が、人によって全く異なるということ。参加者の方に感想を伺うと、「自分とは全く違うけれど、その感覚好きだなぁと思う”ひとり”の話がありました」とお話してくれました。”ひとり”をポジティブに捉える人、ネガティブに捉える人、フラットに捉える人など、皆さんの感覚はまさに十人十色。正解のない問いだからこそ、お互いの意見を尊重しながら、どのグループでもお話が盛り上がっていました。

〈Photo07〉オーダー方法を説明している様子

 ワークショップで”ひとり”についての考えを深めた後は、「”ひとり”をお祝いする」祝祭食を、自ら選択して創っていきます。会場では、ヨコハマベジメイトプロジェクトの農家さんが作った野菜が、生産者の名前と共に展示。また、それぞれの野菜の前には、その野菜の個性と伝統、そしてこの日のために考えられたオリジナルのおまじないが記載されています。「時の流れのなかで置いていかれてしまった伝統や風習を取り戻す」という狙いがるこの仕掛け。忘れかけている伝統や、幸福を願うおまじないに耳を傾けることで、”ひとり”を「祝う」ためにはどんな食材がふさわしいのか、考える手助けになります。

〈Photo08〉野菜とキャプションのシート

参加者の方にお話を伺うと、

参加者の男性「食材それぞれの歴史や育ち方をすごく読みこみました。普段まったくそういうことを気にせずに、自分の好みだけで食材を選んでいたのですが、こういうストーリーがあるんだったら気になるなと。別の方面から野菜を選ぶ基準ができて、次回から買い物が楽しくなる気がします。」

 

参加者の女性「おまじないがすごく面白くて、おまじないのコーナーは全部読みました。読んでいたら感動してしまって、ホロっと涙が出そうになったものがあったので、その食材を選びました。」

と、皆さんテキストをじっくりと読み、「”ひとり”を祝う」のにふさわしいと思う食材を丁寧に選んでいました。

〈Photo09〉オーダーシート

 オーダーシートに記載されている選択肢のなかから、”ひとり”を祝うのにふさわしいと思うメニューを選んだら、祝祭食創りは完了です。キッチンカウンターにオーダーシードを提出し、あなただけのベジランチBOXが出来上がるのを待ちます。

Tinys Yokohama 1Day Exibition

〈Photo10〉展示を見ている参加者

ランチBOXを待っている間に楽しめるのが、4つ目のコンテンツである「Tinys Yokohama 1Day Exibition」。Tinys Yokohama Hinodechoにこの日限定で展示された三輪さんの作品を、心ゆくまで鑑賞することができます。

〈Photo11〉作品展示の様子

 ランチイベントを行ったラウンジだけでなく、タイニーハウスを活用したホステルの部屋でも展示が行われました。美術館やギャラリーとは一味違った空間で、肩の力を抜いてアートを楽しむことができるのも、Art TO Eatの魅力の1つですね。

スペシャルランチ完成!

〈Photo12〉スペシャルランチ

 

〈Photo13〉オリジナルドリンク

 Tinys Yokohama Hinodechoにて完成したランチを、歩いてすぐの高架下にある日ノ出町フードホール内のFarm Deli & Barにてオリジナルドリンクを受け取ったら、イベントのコンテンツはすべて終了です。

「イベントを満喫できました」

〈Photo14〉参加者の女性

参加者の女性1人の時間をポジティブに捉えて、それを食と一緒にすること、考えることと実践のバランスがちょうど良い感じがして素敵だなと思いました。

野菜が目の前にあって、その前にキャプションのようなテキストもあるのがすごく良いなぁと思って、全部熟読しちゃいました。選択肢にきゅうりとにんじんと大根があって、どちらかと言えばにんじんと大根の方が好きなんですが、テキストのおまじないを読んで今日はきゅうりを選びました。テキストも、作品を見ているようで楽しかったです。

光を通して外の風景が切り取られて揺れて見えるという三輪さんの作品を見たいと思っていたので、実際に見れて感動しました。ドローイングも画像で見ることはあったけど実際に見るとやっぱりすごいなぁと思いました。イベントを満喫できました。」

2回連続参加!

〈Photo15〉Farm Deli & Bar 店舗

前回に続いてイベントに参加してくださった男性にも、感想を伺いました。

参加者の男性「前回に続いての参加なのですが、参加型のアートっていうのが新鮮でおもしろく、毎回テーマも興味深いので、楽しんでいます。ワークショップで話をして、1人っていうものを捉える考え方がたくさんあるんだなっていうところで、人との違いを感じられておもしろかったです。

おまじないは、かわいらしくておもしろかったです。食材のキャプションとおまじないを読んで、これを食べたら元気が出るかなとか、このおまじないの通りになれば良いなと思いながら食材を選びました。

ヨコハマベジメイトプロジェクトさんの野菜は何度もいただいてるんですが、野菜そのものも、味付けも、やっぱり美味しいですね。実は野菜は好きなほうじゃないんですけど、本当にここの野菜は美味しいなと思っていただいてます。身体によさそうで、元気になる気がします。」

「“ひとり”を祝う」に惹かれて

〈Photo16〉参加者の女性

参加者の女性「”ひとり”を祝うというキーワードにピンと来て参加させていただきました。コロナ禍でひとりについて考える時間がけっこうあったのですが、改めて状況が落ち着いてきた今だからこそ、振り返ることができて良かったなと思います。

ワークショップでは、1人1人違ったり似ている部分があったりしたのがすごくおもしろいなと思いました。私はあまりひとりをポジティブに捉えることがなかったので、ポジティブに捉えている方の話を聞いて、あ、広がるなと思いました。

ランチはすごく美味しかったです。東京に住んで東京で働いているんですが、コンビニ弁当が続くので、改めて優しい味に出会えて、心が癒されました。ひとり時間をお祝いされているようで嬉しかったです。」

 

川辺に賑わいをつくるmizube bar

〈Photo17〉mizube barの様子

 前回のArt TO Eat 開催時と同じく、この日はTinys Yokohama Hinodecho前の川辺に「mizube bar」が設置されていました。mizube barは、日本大学理工学部海洋建築工学科の親水工学研究室によって設置された川辺や海辺の防護柵などをカウンターバーとして活用する空間装置です。イベントの参加者の方がランチを食べたり、偶然通りかかった人が立ち止まってお茶を飲んだり、大岡川で行われているSUPを眺めたりと、いつもの空間にmizube barが設置されるだけで、心地よい距離感で人々が集う空間が出来上がっていました。

 

〈Photo18〉SUPの様子

 密を気にせず楽しめるアクティビティということもあり、SUPを楽しむ人々で大岡川の水上も賑わっていました。Art TO Eat参加者のなかには、偶然同じワークショップに参加して意気投合し、一緒にSUP体験をしている方々もいました。

待望のはつこひ市場!

〈Photo19〉はつこひ市場の様子

 さらにこの日は、同じく高架下の黄金スタジオにて、はつこひ市場が久しぶりにオフラインで開催されました。入口での検温、アルコール消毒に加えて、事前予約制で時間を区切って入場するなどの感染症対策が行われていました。久しぶりのマルシェは大盛況で、お昼すぎにはほとんどのパンが売り切れていました。

ベーグルもコーヒーも・・・

〈Photo20〉Chair Coffee ROASTERSで販売されたベーグルとコーヒー豆

 同じく高架下にあるChair Coffee ROASTERSでは、はつこひ市場のマルシェにあわせて、ベーグルと、ベーグルに合うオリジナルブレンドのコーヒー豆「BAGLE」が販売されていました。また、「ベーグルのためのドリップコーヒー」も販売しており、淹れたてのコーヒーとベーグルをテイクアウトして、mizube barで楽しんでいる方の姿もありました。

お酒もあります!

〈Photo21〉日ノ出町フードホール外観

 Chair Coffee ROASTERSから歩いてすぐ、Farm Deli & Barと共に日ノ出町フードホールに出店するしっぽ団では、富士桜高原麦酒祭りを開催。普段は海外のクラフトビールが中心のしっぽ団ですが、この日は山梨で作られた地ビールが特別に販売されていました。そのため、フードホールでは、お昼からビールを飲んで休日を満喫している方々がたくさん。テラス席も賑わっていました。

エリア全体をまるごと楽しむ

〈Photo22〉展示風景

 この街では、それぞれのお店や施設が”個”で存在するのではなく、街の構成要素として、ある種の連続性を持って存在しているように感じます。アーティストと飲食店、一見交わりのないように思える両者が交わって、より人々の心に残る食体験、アート体験を提供することができるのも、きっとこの街ならでは。この日のように、1つの場所で完結するのではなく、エリア全体をまるごと楽しむことができるのが、この街の持つ1番の魅力なのかもしれません。

 

取材・文/橋本彩香