地域プロジェクト

公募2021.06.30

黄金町

アートで風景が変わった。そして次のフェーズがはじまる。

2000年代以降、横浜市中区の日ノ出町・黄金町駅エリアの高架下で再開発が進められています。ギャラリーやスタジオ、アーティスト・イン・レジデンス(アーティストを招き、その土地に滞在している間の創作活動などを支援する事業)などアートを主軸にした施設やプログラムを皮切りに、カフェやホステルの複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」、個性的な飲食店が集まる「日ノ出町フードホール」などの開業によって新しい街の風景が生み出されてきました。 

今回お話をうかがうのは、横浜市都市整備局のお三方。特に遠藤さんと小谷さんは、初期段階から日ノ出町・黄金町駅エリアの開発計画に関わっておられます。これまでの経緯やこの地域の魅力、周辺エリアを含めた地域全体の活性化プランなどについてうかがいました。

横浜市都市整備局 都心再生課地域再生まちづくり担当課の皆さん(左から、保下由梨香さん 、遠藤信義さん、小谷友介さん)

新風を吹き込む人を歓迎してくれる場所

―日ノ出町・黄金町駅エリアのここまでのまちづくりについて、どう評価されていますか?

小谷さん:かつてこの辺りには違法風俗店舗が集まり、ピーク時には約260軒まで増加していました。2005年、神奈川県警察によってそれらの店舗を一斉摘発した「バイバイ作戦」を皮切りに、地域、横浜市、NPO、京急、大学が連携して、アートの力を活用した賑わいを作ろうというまちづくりがはじまりました。

2009年に設立されたNPO法人黄金町エリアマネジメントセンターが舵取り役となって、アーティスト・イン・レジデンス(芸術活動を行う人を地域に招き、その活動を支援するプログラム)などを展開。アーティストの皆さんが、かつて「ちょんの間」とよばれた建物をギャラリーやスタジオとして利用したり、街のそこかしこにアート作品を飾ったりしてくれたことで、街の風景は一変しました。長い時間をかけ、じっくりと取り組んできた結果、一定の成果は出ていると感じています。

地域再生まちづくり担当係長 小谷友介さん

−日ノ出町・黄金町駅エリアの個性や魅力はどういうところだとお考えですか?

遠藤さん:日ノ出町には、日ノ出町青年会という組織があります。普通、町内会やまちづくり団体に属する青年部はありますが、ここは独立した組織で、結束力が強く、行動力もあって非常に頼もしい。年長者がある程度若者に任せているので、任される側も動きやすいんです。環境浄化で苦労されてきたからこそ、地域のためになるものは柔軟に受け入れる土壌があるのだと思います。アートと連携したまちづくりが成功したのも、そうした伝統があるからでしょう。6区画に新しく入ってくる方も歓迎してくださると思います。もちろん、京浜急行電鉄や黄金町エリアマネジメントセンター、Tinys Yokohama Hinodechoさんなどの事業者、横浜市も仲介やサポートをしていきます。

小谷さん:私は大学院生時代からこの街のまちづくりに関わっています。当時所属していたゼミがこの街のアートを使った地域再生に参画して、イベントなどを企画・開催していたんです。もともと私は大阪出身で、最初は「よそ者扱いされるんじゃないか」という不安がありました。でも実際は最初から歓迎していただき、学生でありよそ者でもある私たちの活動にも快く協力してくださいました。

 

遠藤さん:私は地元が近いので、環境が悪化していた時期もよく知っています。地域の人は、そんな街のイメージをなんとか払拭するために努力を重ねてきたので、学生が積極的に町に入って新しい風を吹かせてくれることが嬉しく思われたのではないでしょうか。

これから鍵は「水辺の開発」「周辺地域との連携」

―今後のまちづくりについて具体的なビジョンをお聞かせいただけますか?

 小谷さん:昨年(2020年)3月、横浜市と関内・関外地区活性化協議会が共同で「関内・関外地区活性化ビジョン」を策定しました。横浜市の関内・関外という地区は、歴史ある海沿いの町や山手地区、野毛や伊勢佐木町といった古くからある繁華街や商店街など本当に個性と魅力が豊かです。これまでは、それぞれが独自にまちづくりを進めてきたようなところがありますが、今後は街同士が連携して関内・関外地区全体の盛り上げを目指そう、という方向性を示しました。

 

遠藤さん:初黄・日ノ出町地区については、今までは環境浄化を主軸に取り組んできましたが、現在はアート・イン・レジデンスやギャラリー、飲食店などの店舗ができて軌道に乗り、大っぴらな不法行為を目にすることはなくなりました。まだ手を緩めるわけにはいきませんが、次のフェーズに入ってきたと感じています。街の安心安全を保ちつつ、次のまちづくりをどう進めていくかを、地元の方、横浜市、警察、そして京浜急行電鉄も含めて役割分担をしながら考えていくことが課題です。今後は行政だけで決められることではないので、大岡川や川沿いプロムナードなどこの地域特有の資源を活かしながら、皆さんとともに考えていきたいと思っています。

地域再生まちづくり担当課長 遠藤信義さん

小谷さん:横浜市では現在、神奈川県と連携して、大岡川・中村川・堀川の、いわゆる大岡川水系で桟橋の整備や水上交通の活性化を進めており、今後、河川クルーズを楽しめる観光船を就航させるなど、ワクワクするような水辺の風景を作っていきたいと思っています。。船に乗ってもらうためには、寄港先にも魅力が必要ということで、地元の商店会やTinys Yokohama Hinodecho、日ノ出町フードホールなどに併せて新しく6区画に入居する事業者さんと一体的に盛り上げていきたいですね。

 

―皆さんが個人的に思い浮かべる、この街の未来像を教えていただけますか?

 保下さん:アーティストが多い街なので、飲食店の内装をアーティストと一緒に手がけて他にはない店を作るなど、この街に来る目的になるようなスポットやアクティビティを増やし、この地域がどんなところか、多くの方に知っていただきたいと思います。

地域再生まちづくり担当 保下由梨香さん 

小谷さん:魅力的な飲食店が増えてきたので、それとはまた違った業態、例えば映像作品に触れることができる施設や、今も行われているSUPなどの水上アクティビティともジョイントできるような、スポーツ関連の店があると面白いのでは。川を中心に、新しい風景を作っていくこともできそうです。

先ほどもお話ししましたが、関内・関外地区全体で、すでにさまざまな基幹プロジェクトが動いており、将来的な発展が見込まれます。近隣の街と連携をとりながら、一緒に盛り上げていただきたいですね。

 

―6区画のテナント公募について、期待していることはありますか。

 

遠藤さん:高架下の積極活用の取り組みは私たちも賛成です。新しく来てくださる事業者さんと、既存の店舗、地域の環境浄化推進協議会、黄金町エリアマネジメントセンターなど関係各所とともに、どんなことができるかしっかり話し合っていきたいと思います。まちづくりは行政だけでは何もできません。特にこの地域は、まず地元が立ち上がって進めてきたという経緯がありますから。

 

小谷さん:公募ではさまざまな方が集まってくださるでしょう。その方々にも、これまで行政と地域、警察が三位一体になって進めてきたまちづくりの経過を踏まえつつ、この地区に限らず、広く関内・関外地区全体で活性化を目指す取り組みに発展していけるといいなと思っています。