ローカルキーマン

カフェ2022.03.18

日ノ出町

自然体だから持続的。日ノ出町の入口で、まちと人の繋がりをつくる。

WINE&CAFE Kanakoya店主神田香奈子さん

日ノ出町駅から歩くことわずか10秒。
まちの入口に、虹の輪がトレードマークの「WINE&CAFE Kanakoya」がある。

カウンターに立ち、まちを訪れる人々を温かく迎え入れるのは、店主の神田香奈子さん。70年以上続く老舗・神田酒店の娘として日ノ出町で生まれ育ち、自身もこのまちで飲み屋を営む神田さんに、お酒と場づくり、そしてこのまちへの想いを聞いた。

お酒は喜怒哀楽に寄り添うもの

「私は日ノ出町が地元で、実家は神田酒店という酒屋をしています。曾祖父がイセザキモールを越えたあたり、山田町で店を始めて、数年後に日ノ出町で酒販免許を取ったので、70年近く続いていますね。子どものときからお酒が身近にあったことが今の仕事に繋がっているとは思いますが、自分が飲み屋をやるというのは全然頭になかったです。

ただ、学生のころに飲み会をやるとみんな楽しそうだったので、就職するときにお酒に関することをやりたいと思うようになりました。お酒って、嬉しいときも疲れているときも飲むし、誰かが亡くなったり失恋したりして悲しい気持ちのときも飲むじゃないですか。喜怒哀楽すべてに寄り添うものだなと思ったんです。

大学卒業後はビール会社に勤め、ワインの商品企画やマーケティングをやらせていただくなかで、ワインは知れば知るほどおもしろいと感じました。その頃は日ノ出町界隈で色々な種類のグラスワインを出しているお店はあまりなかったし、(日ノ出町駅から見て)野毛の逆側はお店が少なかったんです。だったら自分でお店をやったほうがワインのおもしろさを直接お客さんに伝えられるんじゃないかと思うようになりました。

あと、ここにコミュニティがあったら楽しいだろうなという漠然とした想いもありました。『ただいま』と帰ってこれる場所というか。そこで、2009年に一念発起してお店を始めました。日ノ出町は地元なのでもともと知り合いが多く、最初からたくさん応援してくださる方がいらっしゃったのはとてもありがたく、心強かったです。」

「美味しい」で繋がるコミュニティ

「メニューについては、こだわっているというより、自分が美味しいものを食べたいという食いしん坊欲求です(笑)。

ワインは特定の国のものに絞らず、バリエーションに富んだメニューを用意しています。ワインリストは月に1度入れ替えているので、少なくとも月に1回来ていただけたら新しいものを飲んでいただけます。ワインってグラスをくるくる回して、飲んだ後に何か難しいことを言わなくちゃいけない飲み物ではなく、自由に楽しんでいただければ良いと私は思っています。

食べ物は農家さんや漁師さんなど10軒くらいと直接お取引しているのですが、これは前職の後輩が、美味しい無農薬の柑橘を作る農家さんを紹介してくれたのが始まりでした。きちんと作っているものって、味が結果についてくるんですよね。美味しさを追求した結果として無農薬で育てていたり、安心して食べてほしいからワックスをかけなかったり、食に対して同じような考えを持つ生産者さんが繋がっているところに混ぜていただき、仕入れ先の輪が広がっていきました。

産地から直接届くものは、新鮮だし美味しいし持ちもいい。うちのカレーは玉ねぎの皮やニンジンのヘタを煮出して出汁をとっているんですが、それは農薬を使わずに作られていると知っているからできること。意識していなかったけれど、フードロス対策にも繋がっているんですよね。美味しいものが食べたくていろいろ取り寄せているけど、それが結果的に社会のためになっていたんだ!ということに最近気がつきました。

コロナ禍では、生産者さんの売り上げが減らないよう、週に1度会員さん向けにお野菜やお米の受注販売を始めました。うちで出している食材に興味をもってくださった常連さん3人くらいから始まり、今は10人以上の方が参加しています。お店に取りに来てくれる方限定にはなってしまうのですが、そのままの流れで飲んでいく方とも、引き渡しだけの方とも良いコミュニケーションをとれるので、『コミュニティが育ってきたな』という感覚があります。」

ここは、「ただいま」と帰ってこれる場所

「うちはお酒が強い方も弱い方もウェルカムなので、みなさん本当に自由に使ってくださっています。最初から最後までうちで飲んで帰る方もいれば、ここで待ち合わせをして外にご飯を食べに行き『ただいま』と帰ってきて締めを飲む方、休肝日だからケーキと紅茶だけという方、1歳くらいのお子様を連れてきてくださる方もいます。

うちはカウンターしかないお店ですが、初めて会う隣の席の人に話しかけるお客様がけっこう多いんです。横浜のお店にいる人は人懐っこい印象がありますね。うちのお店で仲良くなった人がいるから楽しくてつい帰ってきちゃうというお客様も多くて、そういう場所にしたいと思っていたのですごく嬉しいです。

ただ、私は自分から積極的に繋がろうよ!というタイプではないので、お店にコミュニティらしさがあるのは結果論だと思っています。美味しいって言ってくれたり楽しいと思ってくれたりする人が増えたら私が嬉しいから、そうやって続けているうちに繋がりが生まれていったのかな。

お店で話したことをきっかけに、青年会に入ってくださる方やまちのイベントに参加してくださる方もいて、そういう意味ではコミュニティの1つの助けになれたかなと思っています。このあたりはもともと問屋街なので、商人が多く町内会も盛んでした。最近はご近所付き合いも変わってきているし、それぞれの場所へ仕事をしに行っているから地元で飲まない人も多いと思いますが、このまちには色々なおもしろいことが転がっています。飲み屋はそういう情報収集にピッタリだし、絶対に興味が合う人がいると思うので、ぜひお店に来ていただけたら嬉しいです。」

日ノ出町はウエルカムなまち

「私はこのまちの川沿いが好きですね。買い出しも兼ねて黄金町や伊勢佐木町方面に行くときは、一旦川沿いに出て野良猫を探しながらお散歩することが多いです。今の遊歩道みたいな雰囲気も綺麗なのですが、桟橋などが柵で囲われてしまっているから、もう少し川と直接触れ合える場所や、水辺で休憩できるような場所がほしいかな。イベントのときに川沿いの柵にカウンターがついていたときがあって、ああいう風にちょっと安らげて、川を見ながらボーっとできるようなところがあるといいなと思います。(mizube barの詳細はこちら

日ノ出町は、古くからいる人も新しい人も関係なくおいでおいで!という感じで、すごくウェルカムなまちだと思います。その人が日ノ出町に住んでいようが住んでいまいが関係なく、このまちで思い出ができるのはすごく良いことですよね。『日ノ出町にくれば何か楽しいことがある』と思ってもらえるようになったらいいなと願っています。」

フードロス、コミュニティ、エリアブランディング。言葉にすると難しく感じるが、それらは敷居が高い特別なことでも、大がかりな準備が必要なことでもないのかもしれない。

「美味しいものを食べたいし、食べてほしい」、「楽しいことをみんなと一緒に分かち合いたい」。そんな気持ちがジワジワと広がり、繋がりや思い出が増えていく。

”地元の小さな飲み屋さん”に、自然体だからこそ持続可能な、理想的なまちづくりの萌芽を感じた。

取材・文/橋本彩香

WINE&CAFE Kanakoya店主神田香奈子さん

京急日ノ出町駅から徒歩10秒のところにあるワインバー“WINE&CAFE Kanakoya”を2009年11月1日にオープン。

営業時間:17:00~24:00(L.O.23:30)
定休日:毎週日曜日、祝日

Twitter:https://twitter.com/kanakoyakanako
公式HP:https://www.kanakoya.com/sp/