ローカルキーマン

カフェ2022.09.21

黄金町

黄金町のスタジオから始まる、夫婦2人の心休まるお店づくり

K2-7 de hitoyasumi山本裕也さん、彩香さん

「黄金町2-7先」には、シェアキッチンとして基本的な調理設備を備え、飲食店営業許可を取得している文化芸術スタジオ「黄金スタジオ」があり、決まった曜日にお店を持ちたいオーナーたちが日替わりで営業を行っている。この場所で2022年1月より、週末にハンドドリップコーヒーと手作りスコーンのお店を営業しているのが、山本裕也さん、彩香さんご夫婦だ。黄金スタジオをスタート地点とし、現在は洋光台でカフェのオープンに向けて準備を進めているお2人に、黄金スタジオのこと、コーヒーとスコーンのこと、そしてこの街についての想いを聞いた。

アートの街のコーヒー屋さん

裕也さん:2年ほど前にお店をやろうと思い脱サラし、アルバイトをしながらカフェでコーヒーの勉強をしたり、週に1度学校に通ってバリスタのライセンスを取りました。そろそろ人に飲んでもらいたいと思うようになり、まずは週1回からお店をやってみることにしました。

彩香さん:お店の開業に向けて舵を振り切るほどじゃないかもしれないけれど、自分のコーヒーがどれくらい人に喜んでもらえるのかを試したいということで、それならレンタルキッチンが良いんじゃないかという話になりました。

裕也さん:黄金町はあまり良いイメージがなかったのですが、約3年前にSUPをしに来たときにアートの街になったことを知って、面白そうだなと思ったのがこの街を選んだ最初のきっかけです。

彩香さん:あとは打ちっぱなしの壁とか内装の雰囲気とか、黄金スタジオのキッチンがすごくオシャレだったのもあるよね。

裕也さん:レンタルキッチンを調べていると、戸建だったり、建物が古かったり、スペースが限られていたりという所が多かったのですが、黄金スタジオは広いうえに、建物の中にキッチンスペースがあるというのが面白く、なかなかない場所だと思いました。両サイドにアーティストさんが入っていると聞いたので、交流できるかもと思ったのも決め手でしたね。オープンしてみると、アーティストさんと交流する機会が本当に多くて、よく通ってくださるお客さんの3割くらいはアーティストさん繋がりの方だと思います。

彩香さん:アーティストさん同士で店内でお話している場面もよく見かけますね。アーティストさんでなくても大きなカメラを持っていたり、ひたすら絵を描いていたり、真剣に本を読んでいたり、アート好きのお客さんが多い印象です。

私たち2人がお店に立っている写真を撮ってくださった方がいたのですが、また別の日にその方がお店に来てくれて、お帰りの後にトレーを片付けようとしたら、すごくおしゃれに加工して現像された写真が置いてあったんです。夫がダッシュで追いかけてお礼を伝えたのですが、アートの街ならではのサプライズプレゼントでとても嬉しかったです。

コーヒーとスコーンに込められた優しいこだわり

裕也さん:コーヒーはあまり奇抜な味にしないよう意識しています。最近はロースターさんが浅煎りで風味豊かなものを出していることが多いですが、お店をやってみると、意外と昔ながらの喫茶店で出てくるようなちょっと苦くて濃い味のコーヒーを好まれる方が多いんです。なのでピンポイントで特定の層に刺さるものというよりは、平均的に幅広く受けいれられるような味を作りたいと思っています。

彩香さん:「押し付けたくない」というのはよく言っているよね。こだわりを強く推し出すというより、みんなが飲んで美味しいと思ってもらえるものを目指したいという。

裕也さん:なので自家焙煎しているけど、あまり自家焙煎という言葉は使わずに、「入ってみたらわりと美味しいコーヒーが飲めるな」くらいのお店を作りたいと思っています。

裕也さん:コーヒー屋のポップには、産地、精製方法、標高など難しいことが書かれていることが多いですが、うちのポップはそういった情報も入れつつ、2人でコーヒーを飲んで素直に思った感想を書くようにしています。味覚は人によって全然違うので、2人で飲み比べて頭に浮かんだものを文字にすることで、イメージをできるだけお客さんに伝えて、飲んだときに想像していたものと味のギャップが生まれないようにしたいと思っています。分かりやすく、できるだけ万人受けするようにというのがこだわりですね。

彩香さん:入口は親しみやすく、でも実はこだわっていることに後から気付いてもらえたら嬉しいです。スコーン作りもすごく大変で、道具を手作りしたものもあるよね。

裕也さん:スコーンづくりは、最終的には生地を棒で伸ばすか、手で折ったものをくり抜くかになるのですが、毎回大きさが変わってしまうことが気掛かりでした。同じメニューを頼んでいるのに「今日のは小さいな」というのをなくしたかったので、厚さも大きさもセンチも揃えられるよう、自分で型を作って、そこに生地を流し込んでいます。

彩香さん:型を作って、それに合う分量のレシピもきっちり作っていたよね。分量や焼き時間は何度も失敗しながら、食感にもすごくこだわってメニューを作っていました。コーヒーに合うというのも重要なポイントだったので、スコーンを食べながらコーヒーをグビグビ飲めるような組み合わせになっています。

裕也さん:尖った形にしているので、先端はサクサクしているけど、食べ進めるにつれてサクサクの中にしっとり感があるという、食感の違いを楽しんでもらえるようにしています。

彩香さん:食べやすいようフィルターに包んで提供しているのもこだわりですね。食べながら作業をしたり本を読んだりできるようにしています。

黄金スタジオをスタート地点に、新たな場所へ

彩香さん:「SNSで見てずっと来たかったんです」、「週末の楽しみになっています」などと声をかけていただくことも多くてすごく嬉しいです。予想以上に多くの方に来ていただいて、なかには毎週末通ってくださる方もいます。

裕也さん:元々黄金スタジオでお店を始めるときに、1年続けたら多少お客さんがつくことを見越して、来年の年明け頃から物件を探して、春に自分のお店をオープンできたらと考えていました。ですが実際に始めてみたら3ヶ月目くらいから常連さんが増えてきて、半年経たないうちにお客さんがたくさん来てくれるようになりました。思いのほか多くの方に来ていただいたことで挑戦してみようという意欲が湧いてきて、予定より早く物件探しに踏み切りました。

スタジオ周辺の自治体と港南台にある無印良品の店舗さんがコラボしている企画があり、たまたまうちが営業しているときに黄金スタジオで打ち合わせをしてくださったんです。そのご縁で無印良品さんの1周年記念イベントに出していただくことになり、さらにイベントをきっかけに6月半ばから約2ヵ月ほど毎週木曜日に無印良品さんに出店させていただくことになりました。そうすると黄金町に来てくださっていたお客さんが港南台に、港南台に来てくださったお客さんが黄金町に来てくれるようになって。なのでどちらからも近いエリアで物件を探し、洋光台にお店を構えることにしました。

彩香さん:黄金スタジオへの出店は9月いっぱいまでになってしまうのですが、今後もイベントなどをぜひ一緒にやれたらと思っています。黄金スタジオの前は意外と人通りも多くて、ご近所の方も海外の方も街に通っている方もいらっしゃって、本当に幅広い層のお客さんを見ることができたので、スタートの場所としてすごく良かったと思っています。お店の名前は黄金スタジオの住所からとっているのですが、新しい場所に行ってもこの名前は変えずにお店を出す予定です。黄金町はスタート地点として大切にしたい場所ですね。

今後は店舗を構える分メニューを広げることができるので、また違ったお店の姿を見せられたらと思っています。夫婦がわちゃわちゃしているところを楽しんでもらいながら、ちょっと一休みしたいとき、癒されたいとき、自分の時間を大事にしたいとき、遠出はできないけどちょっと何処かに行きたいときにぜひ足を運んでもらえたら嬉しいです。

黄金町は、訪れる度に発見がある街

最後に、日ノ出町・黄金町エリアの好きなところを教えていただきました。

彩香さん:ラーメンが美味しいですね。2人ともラーメンがすごく好きなので、一時、出店しては帰りにラーメン食べちゃう時期がありました(笑)。

裕也さん:あとはシンプルに散歩するのが楽しい街だと思います。よく街中の写真を撮るよね。

彩香さん:気付いたら散歩しちゃってる街だよね。アーティストさんのアトリエがあったり、見つけてなかった壁画を見つけたり、行くたびに発見がある街だなと思います。

黄金スタジオでの週末限定カフェをきっかけに、新たな挑戦に向けて動きだしている山本さんご夫婦。黄金町の住所を引っさげた「K2-7 de hitoyasumi」の新しい店舗は、古民家風の建物をできる限り手作りで改装し、「ちょうど温かいコーヒーが飲みたくなる」秋頃にオープン予定。「お客さんファースト」の優しいこだわりでお店づくりを行う2人が新たに創り上げる憩いの場には、きっと黄金町からも多くの常連たちが足を運ぶだろう。

K2-7 de hitoyasumi山本裕也さん、彩香さん

決まった曜日にお店を持ちたいオーナーたちが日替わりで営業を行っている「黄金スタジオ」で、2022年1月より、週末に自家焙煎豆のハンドドリップコーヒーと手作りスコーンのお店を営業している。

黄金スタジオをスタート地点とし、現在は洋光台でカフェのオープンに向けて準備を進めている。

公式Instagram:@k27_de_hitoyasumi