ローカルキーマン

コミュニティスペース2020.09.28

日ノ出町・東ヶ丘

町内会が受け入れてくれたから。世界中の友情は、日ノ出町・東ヶ丘から始まった

NPO法人Connection of the Children代表理事加藤功甫さん

挑戦。

辞書には「失敗を恐れずに困難なことに立ち向かうこと」とある。2013年、世界一大きなユーラシア大陸を自転車で横断するというワイルドな挑戦を終えた加藤功甫さんは、現在、特定非営利活動法人Connection of the Children(CoC、通称ココ)の代表として、他の人の挑戦を応援する側にいる。

2014年には横浜・日ノ出町に事務所を移し、その後はコミュニティスペースとしてCASACO(カサコ)を設立。地域と共に暮らすことを日々楽しみながら、誰かの好奇心を讃え、価値観を広げる教育を活動の軸に置く。

年齢、国籍、性別、文化や言語や宗教など、あらゆる垣根を取り外し、誰に対しても開かれた場を目指してきたことで、この地域にはどのような変化が広がったのだろう。また、コロナ禍となり、将来の関係性づくりをどう見据えているか聞いてみた。

挑戦は、成功するよりも大切なこと

「CoCでは、国籍や文化に関わらず、人が温かい気持ちで繋がれる社会、そして全ての子どもが、やりたい事を見つけ、それをかなえられる社会を実現したい、との想いで活動しています。CASACOはその想いがリアルに体験できる場として、来る人があたたかなつながりを作れたり、何かやってみたいことがある人たちが集い挑戦する場となっています。2019年からスタートしたアソビバという小学生向けの塾では、CASACOに集う子どもたちの思いをみんなで応援してきました。

これまでのアソビバでは、はじめに少しレクチャーの時間をもって、子どもたちが知らないようなトピックで議論するんです。ギネスって何か知ってる?とか、時事的なテーマから歴史を遡ってみたりして、そのうち彼らが何かしらのやってみたいことを思い描き始めるんです。例えば、世界一長い自転車を作ってみたいとか、一眼レフカメラを分解してみたいとか。

周りにいる僕らは、自由な発想に蓋をしないようにして、じゃあそれはどうやったら実現可能なのかな、と一緒に考える役割を心がけてます。大切なことは、成功体験よりも、まずは挑戦してみた、という事実だと思うんですよね。

2020年からは、年齢は問わずに誰でも何かやってみたいことを持ち込めるようにしました。今の社会って、どうしても他人の目が気になりますよね。大人も子どもも同じで、何かやってみたいことが思いついても、もしも失敗したら責められるかな、上手くできなかったら誰かに何か言われるかな、恥ずかしいな、と、何もしてないうちにネガティブな気持ちがこみ上げて来たりして。本当は、その思いに挑戦してどんな自分になりたいか、とビジョンを描くことが重要なはずですよね。実際にやってみること、大変な思いをしてみること、失敗も経験してみたその先にこそ、学びが待っているんですから。

元々僕は教育学を学んだこともあり、子どもたちの世界感が広がったり、国際交流を軸とした教育プロジェクトの実践の場を作りたいと思ってCASACOを始めました。他人の目がきになる社会の背景には、他人と違う行動を取ることに抵抗を感じる風潮があります。その感覚によって守られる何かもあるとは思いますが、違うことを責めずに、お互いの違いを楽しめる社会にしたいんですよね。

CASACOに集まる人は、2階で暮らす最大6名の留学生たちや、1階のコミュニティースペースを利用する老若男女です。生まれや見た目や年齢など、たくさんの”違い”が集まっているので、『普通』という概念はない場所です。中には引きこもりや不登校の子が、CASACOなら遊びに来れると言って来てくれるのですが、それも、ここに来ると自分のことを変わってると思う人がいないからだと思います」

3年掛けた地縁づくりと地域新聞

「以前トライアスロンのレースに出ていた頃、坂や階段があるのでこの辺りをよく走っていたんです。ちょうどCoCの事務所探しをしていた時だったので、ここに賃貸の看板が出てるのを見てすぐに大家さんに電話しました。当時はまだ大学院に通っていたいた学生の僕をよく理解してくださる優しい大家さんで、すぐに引越してくることができたんです。

国際交流や人と人が繋がる活動をするためには、この地域の方々の理解が不可欠だと思ってたので、越してきた翌日に当時の町内会長さんを訪ねて、町内会に入りたいですと直談判したんです。普通そんな入り方する人はいないので、最初は随分怪しまれたみたいですけど(笑)でも町内会に参加できたおかげで行事や定例の集まりに参加できるようになり、少しずつ少しずつ、僕の顔や名前、世界を旅したこと、将来やりたいと考えていることなどを話すようにしました。

その時からCASACOみたいな場所を作れたらいいなぁと構想はもっていたものの、実際の資金や計画のためには、もっと地域との関係性を確実にしたいと思って、結果的には3年近く掛かりましたね。でもきちんとご理解いただけた上でリノベーションを始められて、そのお陰でたくさんの方が作業にも参加してくれましたし、お祭りや餅つきに参加する機会も定着できたのでよかったと思ってます。

この地域の皆さんは優しい方ばかりで、留学生たちが日本文化に触れたり地域交流したり、彼らが一生懸命日本語を使おうとすることにも寛大でいてくれます。届かない場所があるからと背の高い留学生に頼みに来たり、冬の夜は火の用心の夜警を一緒にさせてもらったり、食事に連れて行ってくれたりすることも珍しくありません。中には留学生とどんどん仲良くなって、日本から帰国した後にその人の国まで遊びに行ったりするほど友達になる人もいます。

CASACOをはじめる時に作った地域新聞は今も続けています。SNSなどでの発信もしていましたが、シニアの方にもみていただきたかったので、誰にでも読みやすい紙面にして、自分たちがどんなことをしているか、今どの国からどんな留学生が住んでいるか、といったことをこちらから開示するとともに、地域の情報も一緒に届ける超ローカルメディアです。コロナ禍の今はイベント自体開催できずにいますが、それでも発信することでできていた交流を途絶えさせないように続けています」

広がって、増えながら、繋がる点になりたい

「横浜は昔から国際都市として開かれた歴史もあり、この地域の小学校も在校生の3割は外国にルーツがある児童だと聞きますが、その一方で、他人の目を気にしたり、人と違わないようにする現実もあるわけです。僕らの場合は、世界とも繋がってるけど、この限られた地元地域とも濃く繋がっていて、世界もローカルも両方同じようにつながりを持つことが大事なんだと思うんですよね。学校のお友達だけじゃない、地域でも国籍や年代を超えた友情が増えたら、それはいつか世界平和にも繋がるものなんじゃないかな、って。

僕自身も世界を旅しながら、遠くの異国を知れば知るほど日本の魅力を感じたり、もっと日本について知りたくなったりしました。違いを知って、違うからこそ良いのだ、理解することはすごく大切だと思うんです。CASACOも誰かにとってそういう実感ができる場所でありたいですね。自分とは真逆の意見を持つ人にも、予想だにしない言動の人にも、そう来たかと笑って受け止めらる人が増えたらいいですよね。

グランドオープンから5年目を迎えたCASACOは、そんな場になってきました。当初の構想を超えたものになったと思ってます。まだまだ改善したい課題は山ほどありますが、人と人のつながりは日々たくさん誕生してるし、ここで何かに挑戦することも定着してきました。

やっと出来上がって来たこの点が、この先は広がっていくのか、もしくは増えるのか、何らかの形で変えていく必要はあると思っています。ひとつには、この地域がCASACO発の一大ホームステイタウンになったり、もしくは過去ここに関わってくれた方が別のCASACOを作ったり、または、時代的にオンラインでのつながりを強めることも考えられるかもしれません。いずれにしても点が大きく広がりを見せたり、他の点と繋がることでより広い範囲に関わってくれる人を増やしていきたいですね。

僕自身もこの街とはこの先の人生もずっと関わりを持っていたいと思うようになりました。今では家族も増えたので、地域の方に以前よりももっと信頼してもらえているような気がします。

それにこの地域で最近、いろんな活動をしている同世代の方々とつながりが増えてきたんです。新しい価値観を提供しているような方々と協力しあって、いつか一緒に面白いことしたいね、とは話したりします」

取材・文/ やなぎさわまどか

NPO法人Connection of the Children代表理事加藤功甫さん

横浜国立大学で教育学を専攻。大学1年生でトライアスロンを始め、出会った人々と糸をつなぐ「世界糸つなぎの旅」でユーラシア大陸自転車横断を達成する。2016年にCASACOをオープンし、多国籍多世代の交流や教育事業を行う。

 

CASACO
https://casaco.jp/

Connection of the Children
https://coc-i.org