ローカルキーマン

イベント2022.03.29

関内

ビールで繋ぐ、人と街。横浜をクラフトビールの街に。

株式会社横浜ビール 広報横内勇人さん、工藤葵さん

日本のビール文化発祥の地、横浜。
その横浜で、最も古いクラフトビールの醸造所を持つのが「株式会社横浜ビール」だ。株式会社横浜ビールは、ビールをハブとして、スポーツ、教育、環境、アート、音楽など様々な分野で、横浜・神奈川を盛り上げている。

ただビールをつくるのではなく、ビールを通して街の人々の暮らしをつくる。
唯一無二の「ローカルビアカンパニー」で、広報として活躍する横内勇人さん、工藤葵さんに、横浜ビールの活動とこの街への想いを聞いた。

一人の農家さんから始まった、繋がる意識

横内さん:株式会社横浜ビールは、2022年4月で24年目を迎えます。僕の入社前の話になりますが、横浜ビール本店の「驛の食卓」は、オープン当初は和風イタリアンのレストランとして売り出していました。しかし価格帯が高いこともあり、時間が経つにつれてお客さんが減ってしまった。そこでメニューを値下げして宴会や飲み放題を行うと、客足は増えたけれど、安さ目当てのお客さんが多くなり、時にはお客さん同士で喧嘩が起きたり、利益も少なく従業員も疲弊するという事態になってしまいました。

そんな時、当時の横浜ビールの社長は、野菜作りにとことんこだわったある農家さんと出会ったそうです。その方は、肥料もご自身で研究して作り、人が食べられるものを使用したりと、とにかく美味しい野菜を作ることに真剣な方で。その方のお野菜をお店で提供することで、「ただ安く仕入れたものを出すのではなく、生産者の方のストーリーや人柄を伝えて売るのがレストランの役目だ」いうことに気がつき、次第に店の方針が変わっていきました。その方に、知り合いの農家さんをはじめ、横浜でお醤油、ケチャップ、ごま油など、こだわってものづくりをしている生産者さんを紹介していただいたそうです。ただ食材を使うのではなく、作っている人のストーリーを伝える、ということをしているうちに、地域や人との繋がりが生まれていったと聞いています。

東日本大震災が発生した頃には、福島出身のスタッフがいた縁で、福島や気仙沼など東北の食材も使用し始めました。今の驛の食卓の1番人気である「気仙沼こいわかめの岩井の胡麻油炒め」は、気仙沼の漁師さんに教えていただいたわかめの美味しい食べ方を、横浜の胡麻油を使って再現しています。横浜に限らず、人との繋がりがある地域の食材を使用しているのが、驛の食卓の特徴です。

ビールはコミュニティのハブになる

ビアランニングイベントの集合写真

横内さん:僕は2016年、34歳のときに横浜ビールに入社したのですが、ビールがハブになってもっと楽しいことができるのではと考えていました。最初に形になったのは、2018年のビアランニング。驛の食卓を出発し、みなとみらいや野毛の街を走り、帰ってきてビールを飲むというイベントです。たまたま初回の参加者さんに、ランニングが得意で横浜の地理に詳しい方がいたので、コースを決めて参加者さんを先導してもらうことになり、回数を重ねて今年で4年目になります。

僕としては、自分がやりたいことを楽しんでやって、それを共有することができたら、参加者の方がビールを飲んでも飲まなくてもどちらでも良いと思っていたんです。だけど僕たちが楽しんでやっていると、参加者の方もすごく楽しんでくれて。無料で出している分に追加してビールを飲んでくれたり、イベント後に参加者同士で野毛に飲みに行ったり、新たなランニングのイベントを企画したりと、自然とコミュニティができていきました。驛の食卓だけではなく、Tinys Yokohama Hinodechoなど、近隣地域の施設を発着点に開催させてもらったこともあります。こうして輪が広がり、いまでは「ヨコビランニングクラブ」としてたくさんの横浜ビールファンの人たちが集まるコミュニティになりました。

ビアバイクで街をめぐる様子。

ビアバイクは入社前からの個人的な夢でもありました。転職のタイミングで両親と妻と行ったハワイ旅行ではじめて存在を知ったのですが、乗った時に両親が本当に楽しそうだったんです。すごく笑顔で、知らない外国人に日本語で話かけるくらいノリノリで。その姿を見て、これは絶対に横浜でやりたいと思いました。入社後は横浜ビールの仕事をしながら、個人で「mass×mass関内フューチャーセンター」というシェアオフィスを借りて、ビアバイクの夢を実現させるために動いていました。

ビアバイクは日本では希少なものですが、色々な奇跡が重なって、あるビアバイクを製作した宮崎の方と繋がることができました。ちょうどその頃、「mass×mass」の知人から、「日本大通りでカーフリーデーのイベントをやるから、ビアバイクを走らせてみない?」と声をかけてもらったので、宮崎の方にお話ししました。ビアバイク自体は会社のものなので、会社に相談してくださって。輸送などにお金がかかるので難しいと思っていたのですが、お祭り好きの社長さんが快諾し、20人くらいの社員と共に、ビアバイクを持って横浜まで来てくださったんです。そのおかげで、横浜ビールの当時の社長にビアバイクを体験して良さを分かってもらえたので、横浜ビールの事業としてビアバイクを運営していく方法を考えるようになりました。当時横浜市で働いていた庄司さんとの出会い、様々な方とのサポートをいただき、伊勢佐木町の商店街、元町ショッピングストリート、そして横浜美術館の前でビアバイクを走らせることができ、ついに昨年、横浜観光コンベンションビューローの助成事業に採択していただきました。

ビアバイクはもともと、どんな人でも楽しめるし仲良くなれるから絶対に走らせたい、という僕の想いだけでスタートしました。しかし一昨年、開業したばかりのハンマーヘッドに「NUMBER NINE BREWERY」というビール醸造所ができ、そこのヘッドブルワーである齋藤さんが、ビアバイクに興味を持ってくださいました。それをきっかけに、ビアバイクで近隣のビール醸造所を見学付きで巡るツーリズムが誕生しました。横浜には10ヶ所以上のクラフトビール醸造所があるのですが、一般の人には意外と知られていない。そこにビアバイクというコンテンツがあることで、「クラフトビールの街」と認識してもらえるようになるんだと、活動していくうちに気が付きました。

こうしてヨコビランニングクラブとビアバイクの活動を進めていたら、スポーツ、アート、音楽、教育など地域の様々な分野の方から、「こういうことはできませんか?」とお話をいただくようになりました。そして、それをすべて断らずにやりました(笑)。驛の食卓の店長である廻(まわり)を中心にフットサルクラブを作ったり、横浜の大学と連携して新成人応援企画を始めたり、他にも、キャンプ、ヨガ、本屋など、横浜ビールを愛してくださる”ヨコビファン”のおかげで、活動の幅が広がっています。

クラフトビールの魅力、そして作り手の想いを伝える

「めぐりあい meguriai」

工藤さん:私が本格的に横浜ビールの広報として携わるようになったのは、2020年の春です。それまでは5年間、看護師として働いていました。総合病院から介護老人保健施設に異動したことをきっかけに“生活を送る場所”で看護を学ぶようになって、身体の健康と同等に、各々に生活の楽しみや生きがいがあることが大切だなと感じるようになりました。ビールも誰かにとっては必要無いけれど、誰かにとっては命同様に大切なものだったりしますよね。

そこで、医療現場ではない場所で、誰かにとっての生活の楽しみについて真剣に向き合いたいと思い、退職してフリーランスの写真家として活動を始めました。カメラマンとしてスタジオに就職して一人前を目指すのではなく、一つの修行の場として横浜ビールを選んだ感じです。

看護師時代にクラフトビールの表現や多様性、人を繋げる力に惹かれて、その魅力を伝える仕事に挑戦してみようと、ビアジャーナリストアカデミーという講座を受けたり、webメディアのライターをしたり、自主イベントを開催したりしてしました。でも、単発のイベントや記事制作だけでは本当の意味で貢献できていないように感じていて。ビアジャーナリストアカデミーで同期だった横内さんに仕事依頼を頂いたことをきっかけに、横浜ビールに携わるようになりました。横浜ビールには、業務委託パートナーとして広報チームに加入し、横浜ビールについて知り、更に楽しんでいただけるような企画や発信をしています。

なかでも、シーズナルビールのブランド「めぐりあい meguriai」の企画は大きな経験となりました。横浜ビールは毎年、地元の生産者の方々が栽培したフルーツやホップを使用したシーズナルビールを醸造しています。生産者の方との信頼関係を大切に醸造する、会社として思い入れのある商品なのですが、シリーズとして展開していなかったので、大切な想いが十分に届いていないという課題がありました。その想いを一つのブランドとして表現したのが「めぐりあい meguriai」というシリーズです。一昨年からリニューアルを始めて、横浜を拠点に活動されているデザイナーの木村薫さんと共に、ラベルも一新しました。有り難いことに通販サイトで販売する度に早い段階で完売しているのですが、店舗で見かけた際にはぜひお手に取っていただきたいです!

横浜は「日本で一番大きなローカル都市」

工藤さん:私は元々、横浜と接点は無かったのですが、横浜ビールを通じて、ローカルな場所や人と出会うことが出来ました。都会的な要素もあるけれど、ローカルな要素も強く面白いなと感じています。

昨年、青葉区を拠点に活動されている「横浜あおば小麦プロジェクト(アオバザール合同会社)」の方々とコラボビールを醸造した際には、山と田んぼに囲まれた寺家ふるさと村という場所を「ここ、良い場所でしょ〜!」って連れて行ってくれて。自分達が暮らす街の“好き”について自分の言葉で語る事が出来る大人は魅力的だし、その街の魅力だなと思いました。そんな事もあって最近、青葉区に引っ越しました(笑)

横内さん:僕は、横浜は日本で一番大きなローカル都市だと思っています。何か活動をしたら、「あの人がこんなことをやっていたよ!」とすぐに広がり、人から人へ繋がっていくんです。都心部では、街単位でこういうことはなかなか起きないんじゃないかな。最近は、横浜ビールの近くを歩いてると、1日に3人ぐらい知り合いとすれ違って挨拶をしています。地元でもこんなことはないので、それがすごくいいなと思っています。

横浜は、本当にランニングしやすい街だと思います。特に日ノ出町や野毛の街並みは他にはない雰囲気だし、関内やみなとみらいは道も広いので走るにはすごく良い場所だなと。最近はランニングしながら打ち合わせをすることもあります(笑)。

工藤さん:私はやっぱり横浜ビールの本店が一番好きな場所です。醸造所を併設しているので、新鮮な横浜ビールを美味しく飲めて、美味しいご飯がモリモリ食べられます。笑

20年以上の歴史があり、昔から利用してくださっている方が沢山いる中で、今後は普段、クラフトビールを飲まないような20代の方にとっても気軽に通える場所になると嬉しいなと思います。この店で仕事終わりにビールを飲むのが本当に好きです。

横浜を、ビールというエンタメがある街に

工藤さん:横浜ビールは「ローカルビアカンパニー」として、「あなたの暮らしにワクワクを」という2022年のミッションを掲げています。街の企業として、街と人の為に出来ることを探求しているのが横浜ビールの個性であり、魅力だと思っているので、これからもビールを通して沢山のワクワクする時間をこの街と育んでいきたいです。

広報としては数年単位の目標が一つあります。最近はクラフトビールが頻繁にメディアに取り上げられるようになっていて、昨年、有名なライフスタイル系の雑誌がまるごと一冊クラフトビール特集の号を発売したんです。多くのブルワリーが紹介されていたのですが、横浜ビールは取り上げられなくて。まだまだ伝えきれていないんだなと改めて感じました。

メディアに取り上げられることで多くの方に横浜ビールを知ってもらうことができるので、そういったきっかけ作りも頑張っていきたいです。

横内さん:横浜ビールとしては、ビールが「街」と「人の暮らし」を繋ぐハブとなり、日々の暮らしに寄り添うものにしたいという想いを持っているので、これをどんどん浸透させていきたいです。

2021年には「横浜をクラフトビールの街に!」をコンセプトに、横浜のクラフトブルワリー数社で「YOKOHAMA CRAFT BEER MARCHE(横浜クラフトビールマルシェ)」という団体を始めました。ブルワリー同士で協力して、「クラフトビール飲むなら横浜に行こう」と言ってもらえるような街にしていきたいと思っています。ハンマーヘッドの前で、横浜のブルワリーだけを集めた「カンパイヨコハマ」というイベントもやりたいと思っています。保健所のルール等でイベント時に臨時の水場を作るのはハードルが高いのですが、アルコールは腐らないので、このエリアを『乾杯特区』として屋外でビールを注ぐイベントを行うことで、「外でビールを注ぐのっておかしくないよね」という風潮を作りたいです。

個人的な話ですが、最近初めて、大阪のユニバーサルスタジオジャパンに行ってみたんです。USJは「世界一のエンタメを作る」というのを掲げていて、お客さんがすごく楽しそうにしているし、働いてる人たちにも施設にも、お客さんを楽しませるための仕掛けがたくさんある。僕は、ビールを通して横浜をそういう街にしたいと感じました。ランニングやビアバイクなど様々な取り組みを続けて、いつか横浜を、ビールというエンタメで楽しめる街にしたい。ビアバイクの夢がそうだったように、声に出していれば、きっと実現できると思います。

ビールが好き、この人が好き、この街が好き。
「ローカルビアカンパニー」として、たくさんのファンと共に歩む株式会社横浜ビール。横浜ビールがつくるコミュニティにはいつも、たくさんの「好き」が溢れている。

取材・文/橋本彩香
写真/工藤葵(写真家・横浜ビール広報)https://www.facebook.com/yokohamabeer/

株式会社横浜ビール 広報横内勇人さん、工藤葵さん

ビール文化発祥の地 横浜で一番古くからあるクラフトビール醸造所「横浜ビール」。ビールをハブとして、スポーツ、教育、環境、アート、音楽など様々な分野で、地域を盛り上げるローカルビアカンパニー。

株式会社横浜ビール:http://www.yokohamabeer.com/index.html
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