地域の交流拠点を担う京急線高架下の複合施設

初音町・黄金町・日ノ出町エリアでは、毎秋恒例の黄金町バザール、年に数回開催される黄金町パンとコーヒーマルシェなど、京急線高架下の施設を中心に地域イベントが盛り上がりを見せている。その賑わいの一端を担っているのが、宿泊、飲食、イベントスペース、水上アクティビティを有する複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」だ。2018年4月に日ノ出町駅近くの高架下に突然姿を現した不思議な建物は、丁寧に時間をかけて、地域のコミュニティハブへと成長している。

日本初！泊まれるタイニーハウス

　Tinys Yokohama Hinodecho最大の特徴は、車輪つきの「タイニーハウス」を用いた可動産の施設という点だ。直訳すると「小さな家」を意味するタイニーハウスは、2008年のリーマンショック後、ミニマリズムやローンにとらわれない生き方への関心が高まったアメリカ社会に1つのムーブメントを引き起こした。Tinys Yokohama Hinodechoでは、3棟のホステルと、カフェラウンジに併設するキッチンスペースが、車輪付きのタイニーハウスとなっている。宿泊できる移動型タイニーハウスは、日本初。それぞれの部屋には4つのベッドがあり、ドミトリー（相部屋）利用も、1棟貸切の宿泊も可能。かすかに聞こえる電車の声を子守歌にタイヤのついた小さな家で過ごす夜は、ここでしか味わえない新たな宿泊体験だろう。高架下にタイニーハウスが並んでいる風景は、日ノ出町の新たなランドマークとなっている。

地域の交流拠点として、食やアートなどのイベントを開催

過去に開催された「黄金町パンとコーヒーマルシェ」の様子

　Tinys Yokohama Hinodechoでは、オープン以来200以上のイベントを開催してきた。地域の人々との繋がりから生まれたイベントも多い。2020年にスタートした現代アートと食のコラボレーション企画「Art TO Eat」もその1つだ。Art TO Eatでは、Tinys Yokohama Hinodechoを運営するYADOKARI株式会社でコミュニティビルダーとして活躍する伊藤幹太さんを中心に、黄金町エリアで制作活動を行うアーティストと地域の飲食店がコラボレーション。食べるという行為を通して現代アートへの新たなアプローチを試みる体験型のコンテンツが提供される。滞在制作を行うアーティスト、そしてこだわりを持った飲食店の多い黄金町エリアならではの企画で、過去3回のイベントはすべて満員となる人気ぶりだ。

　地域活動を行う袴田あかりさんと前出の伊藤さんが店主を務め、地域住民を迎えて不定期で開催される「あかりとカンタのいただき食堂」や、コロナ禍前には、2万人を導入する人気マルシェ「黄金町パンとコーヒーマルシェ」、寿町にあるヨコハマホステルヴィレッジとコラボしたまち歩きなど、地域住民が気軽に参加できる多岐に渡ったイベントが開催され、参加者同士の繋がりが生まれてきた。

　コロナ禍には、横浜シネマリン、シネマジャック&ベティ、若葉町ウォーフといった周辺地域を代表する芸術施設と共に配信型のトークイベントや、地域飲食店とコラボしたオンライン飲み会を主催。人が集まることができない社会状況のなかでも、途絶えることなく地域の賑わいづくりが続けられた。10月からは、感染症対策のもとオフラインでのイベントを再開し、電波越しではない繋がりの場が少しずつ戻ってきている。

コロナ禍でも変わらぬミッション

「地域の方との関わりからカルチャーコンテンツを作っているのが、Tinysのイベントのおもしろいところだと思います。コロナ禍という状況ですが、Tinysのミッションは引き続き変わらないので、エリア全体の賑わいを作れるように地域の方と協力しながらやっていきたいと思っています。ぜひ1度遊びに来てください」（YADOKARI株式会社 川口直人さん）

カフェラウンジでは、厳選した食材を使った2種類のランチプレート「チーズバーガープレート」「米粉フォッカチャマグロサンドプレート」：各1,150円（税別）や、横浜野菜を使用した予約制の「こたつ鍋コース」（夏はBBQコース）、横濱金沢ブリュワリーとコラボして作られたTinysオリジナルビールなど、こだわりの飲食メニューが楽しめる。

宿泊、食事、イベント、アクティビティと、様々な魅力あるコンテンツで、多くの人を引き寄せるTinys Yokohama Hinodecho。たくさんの人が集まるこの場所は、いつも、新しい何かが生まれる可能性に満ちている。

取材・文／橋本彩香