カルチャースポット
アート2022.03.11
日ノ出町
「気になる場所」来る動機はそれだけでいい バー『Laugh Park』
Laugh Park
日ノ出町駅から歩いて5分程度のところにあるバー『Laugh Park』。京急線の高架下沿いにあるその店からは、いつもセンスのいい音楽が聞こえてくる。
「“ラフパーク”という店名のとおり、店側もお客さんも、お互いにラフに過ごせる空間にしたい」と語るのは店長の陳険峰さん。
今年でオープンして7年目を迎えるLaugh Parkが「こうありたい」と思うお店の理想や、これからの展望について陳さんとスタッフの愛沙さんにお話を聞いた。
アートと音楽が交わる場所
もともと、飲食店をやりたいという気持ちを持っていた陳さん。最初はずっと東京で物件を探していたという。
「当時、東京に住んでいたこともあり、お店をやるなら都内でと思っていました。日ノ出町に来たのは数年前の桜祭りのときだったかな。裏路地を通ったときに見つけた空き店舗がここ。雰囲気と価格が良くて、即決でした。音楽が好きで、こういうカルチャーのある店がやりたかった」(陳さん)
店内には多くのアート作品が展示され、積極的に店内で音楽も流し、DJイベントも頻繁に行われている。コロナ禍で数は減っているが、多いときは毎週末、イベントが行われている。
訪れるのは地元の人や、地域のアート関係、音楽関係の人が多いと言う。お客様として来てくれたアーティストたちと、そこから一緒にアートのイベントを行うこともあるのだとか。
「横浜で活動する知り合いのアーティストや、黄金町のアート関係者も、よくお店に遊びに来てくれます。店内に展示している作品の多くは、そうやって仲良くなったアーティストのもの。黄金町のアーティストインレジデンスに滞在するアーティストと、一緒にイベントを開催したこともあります。音楽もアートも、横浜で活動するひとが手がけたものが、こんなにもかっこいいんだということを知って欲しいですね。」(陳さん)
スタッフの愛沙さんは2021年の4月からスタッフとしてLaugh Parkで働いている。
「出身は福岡で、上京してからも都内や湘南に住んでいました。
もともと、ストリートカルチャーだったり、アートだったり、写真だったり……そういうのがすごく好きだったので、日ノ出町に初めて来たときは『ここの街は、他とちょっと違うぞ』と思いましたね。
働いてみると、様々な国の人がいて、地元の人もいて、新しい風を吹かせようとしている人もいて、たくさんの人が何かにチャレンジしようとしている街だな、というのは感じました」(愛沙さん)
すっかり日ノ出町という街に魅了され、街の人たちの様子を観察するのが好きだという。
日々変化していく内装も注目のひとつ
店内でまず目を惹くのはその内装だ。実は全て陳さんが自分で改装したという。
「もともとちょんの間だった2つの物件を、壁を抜いて一部屋にしたんです。トイレも階段も2つあったのをひとつはつぶして、水回り以外は全部自分でやりました。一番大変だったのは壁かな。長いブロックの木材を買ってきて、スライスして、1枚ずつ壁に貼っていったんです。あまりに大変だったので何度もやめようかと思いました(笑)」(陳さん)
2階建ての店内は、1階と2階で全く趣きが違う。
「1階はワチャワチャ。2階はちょっとまったりとしていて、年配の方でも座ってくつろいで過ごせるように作っています」(陳さん)
しかし、まだ店内の改装は続いている。愛沙さん曰く、「陳くんは急に発想が浮かんで、急に動き出す」のだそう。
「通常営業だと思ってお店にくると、陳くんがひとりで動き出しているんです。何をしているのかな、と思って見ていたら木を取り出して、カットし始めたり。それを観察して『今日はこれを作りたいんだなあ』と状況を把握しています。しょっちゅう新しいスペースができたり、一部が改装されたりして、どんどん変わっていく様子は見ていてもすごく楽しいです」(愛沙さん)
店内には工具などが揃っており、陳さんはインスピレーションが湧いたら、そのまま作業を始めるのだという。店内のいたるところに陳さんが手がけたものがある。
「たぶん、次、お店に来たときは今日とはまた少し変わっていると思いますよ」(愛沙さん)
いろんな世代の人たちに訪れてほしい
入れ替わりは激しいが、地元の人も多く訪れるというLaugh Park。特に派手に宣伝しているわけではないが、店は賑わいを見せている。今年で7年目を迎えるが、陳さんは好きだから続けているという。ただ、コロナ禍で少しばかり体制も変わった。
「もともとフードも出していたけれど、ロスのことを考えて全部やめました。イベントのときは、要望があれば人数分を作って持ってきたりもするけど」(陳さん)
「私はフードを出していたときのことは経験していないんですけど、以前から来られているお客さんからは料理の話もよく聞きます。『また出してほしい』とか『ここの料理はすごく美味しいんだよ』とか。すごく人気があって、みんなに愛される料理を作っていたんだなあ、って」(愛沙さん)
コロナ禍が落ち着いたとしても、残念ながらフードを復活する予定はないという。1階のカウンター部分もドリンクのみを作る構成に改築済みだ。
「まだ具体的にはなっていないけど、いずれ別でフードを出すお店は作りたいですね」(陳さん)
「今はやっぱり絞られたジャンルの人たちがここを愛してくれているので、ここのお店のようなジャンルも持ちつつ、大学生とか主婦層だったり、もう少し広い世代の人たちに浸透しやすい空間を作れたらな、という話をしていました」(愛沙さん)
横浜の音楽カルチャーの発信地のひとつに
今の店はアンダーグラウンド感が強い、と陳さん。しかし、それがお店の特長のひとつでもある。
「メジャーもいいけれど、こういうアンダーグラウンドな、横浜の地元の人が作っているものもイケてるんだ、ということをみんなに知って欲しい。
うちだと入りづらさはあるけど、別に音楽やアートが目当てじゃなくても、フラッと入ってきて『こういう店があるんだ』っていう知ってもらうだけでも良いと思ってます」(陳さん)
「1階がけっこうゴリゴリにヒップホップの音楽がかかっているので、一見さんが入りづらいだろうな、というのは私も店に立っている側として思います。1階と2階の雰囲気が逆だったら、もっと違うかもしれませんね。でも、1階の空間は1日で変えられるわけではないから、音楽やお香をその日のお客さんによって変えてみるなど、工夫もしています。その時お店に来てくれた人にとってどの状況が一番リラックスできる環境かを、陳くんも私も考えています」(愛沙さん)
確かに、外観からは少し近寄りがたさを感じられる。しかし、一歩店内に入ってみると、愛沙さんが言うように、とても居心地が良い。
「Laugh Parkに行ってみたいけどなかなか勇気がでない…という人はかなり多いと思うんです。でも、そういう人にこそ気楽に来てほしいですね。気が向いて、興味が湧いたら来てください、というスタンスです」(愛沙さん)
「お店に興味を持ってくれている人はいるんだろうけど、やっぱり最初の一歩、勇気が出ないんだと思うし、入ってみても、合わない人もいると思う。でも、お店の名前のとおりに、ラフに来てほしい。本当に気を遣わず、日常のちょっとした異空間を楽しみに来てほしいですね」(陳さん)
雨の日のLaugh Parkも楽しんでほしい。
最後に、日ノ出町~黄金町でお気に入りのスポットについて聞いてみた。
「私はイセザキモールにある有隣堂。あの建物の造りだったり、みんなが周りのことを気にせずに、自分の世界に入っている感じが好き。ちょっとコーヒーが飲みたいな、と思ったら、近くにあるタリーズに行って……
特に雨の日の有隣堂がめっちゃいいです。ちょっと濡れながら、傘を閉じて、ジュンク堂に入って、本を見る。そんな感じが好きです」(愛沙さん)
「この店で過ごす雨の日が好きですね。2階にいると、屋根に当たる雨の音がよく聴こえる。パタパタパタって。その音がたまらないので、ぜひ一度体験してほしいですね」(陳さん)
ラフに、という言葉を何度も口にしていた陳さん。確かに、その空間はくつろいでいて、心地よい時間を過ごすことができる。
音楽とお酒と、心地よい空間。一度、踏み入れたら病みつきになるはずだ。