カルチャースポット

7artscafe2023.01.12

末吉町

目指すのは誰もが受け入れられる場所。アートと食、そして人が集う日ノ出町の文化交流拠点/7artscafe

7artscafe〜セブンアーツカフェ〜

日ノ出町駅を出て歩くこと約4分。大岡川を跨ぐ旭橋を渡ると、建物3階分の壁に描かれた迫力満点の絵に目が奪われる。

壁画は、2021年7月にこの建物の1階にオープンした「7artscafe」がアーティストとのコラボレーション企画によって製作したものだ。ニューヨークのソーホーを思わせるような
オープンマインドで明るい雰囲気が特徴の「7artscafe」は、芸術、食、そして多様なバックグラウンドを持った人々が交流する文化的ハブとして、連日賑わいを見せている。

「7artscafe」の生みの親である代表のジョセフ・アマトさんに、開業までの経緯、そしてお店への思いについて聞いた。

音楽を学び歩いて、たどり着いたまち

ニューヨーク大学 (New York University)で音楽を学んでいたというアマトさんは、大学院時代に『世界中の音楽を学びたい』という思いから半年ほど世界各地を回る旅に出たと言う。

アマトさん「世界各地を回り、最後にたどり着いたのが日本でした。その時に初めてお箏と三味線の音色を聞いて、この楽器をもっと勉強したいと思い、日本で仕事を見つけました。2年ほど福岡のインターナショナルスクールで働きながらお箏を学び、その後数年はアメリカと日本を行き来しながら博士号取得のための作業や仕事をしつつ、お箏の稽古を続けました。

日本に腰を据えるようになったのは、2000年にお箏の先生から日本の文化庁が行うスカラシップに誘われたことがきっかけでした。1年間文化庁のスカラシップに参加した後、2003年に横浜インターナショナルスクールで邦楽プログラムを設立し、英語でお箏などの邦楽を教えていました。

邦楽プログラム設立後は、演奏会やワークショップを開催したり、海外にも足を運んだりと活動し続けていました。ですが10年近くが経った頃に疲れが出てしまい、改めて自分の気持ちと向き合い、自分はなぜ日本に住んでいるかを考えました。その結果、お箏以外のお茶や生け花などの日本文化や横浜の歴史などをより深く学びたいと思うようになり、横浜インターナショナルスクールの校長先生にお話をして、2011年にスクール内に「ジャパン・カルチャープログラム(ICJC)」を設立しました。ICJCではお茶・生け花の先生や横浜市役所の方など、日本文化や横浜の歴史に詳しい人と繋がり、レッスンや横浜ツアーなど様々な活動を行いました。」

長年の夢を形に

7artscafe店内・イベント時の様子

横浜の地で、日本文化やまちの歴史に関わる活動を長きに渡って続けてきたアマトさんですが、心の中には「アートと音楽と食、そして人間のコミュニケーションが共存し、誰もが受け入れられる場所を作りたい」というかねてからの夢があった。

アマトさん「長年カフェの開業を夢見ていましたが、自分が理想とするニューヨーク・ソーホーのような雰囲気の、窓の外から店内が見える広々とした物件と出会えずにいました。ところがコロナ禍前の2020年12月に、私の夢を知っている不動産業の友人が『アマトさん、黄金町の近くにピッタリのスペースがありますよ』と教えてくれて。数年空き家になっていた部屋でしたが、内覧に行くと、大きな窓から日の光を感じることができて、ピアノを置いて、展示会ができて、カウンターがあって、という理想の場所が作れると確信しました。もとからある壁は良い展示ができると感じたし、3.4mある天井は響きがすごく良いだろう、と。

立地的にも黄金町・日ノ出町周辺はアート活動が盛り上がっていて外国人も多いエリアなので、色々と協力できることもあると思い、ビジネスパートナーとこの場所で長年の夢を形にすることに決めました。

もともとは小さな飲食店が5軒入居している建物で、そのうちの2店舗分を活用しています。建設会社の方とも何度もイメージをすり合わせながら、理想の空間が作れたと感じています。オープン後もカウンターテーブルの数を減らしたり、キッチンスペースを追加したり、イベントなどを行ううちに少しずつ空間を変化させています。」

「7artscafe」にこめた想い

「7artscafe」という店名は、ビートジェネレーションのアーティストに人気の待ち合わせ場所であったアメリカ・ニューヨークの「7 Arts Coffee Gallery」に由来しているが、その他にも様々な想いが込められている。

アマトさん「大学時代に『7 Arts Coffee Gallery』とその歴史に興味があり、何度か足を運んだことがありました。『7arts』は、建築、ダンス、映画、文芸、音楽、絵画、彫刻という7つの伝統的芸術を表しています。その他にも、『7』という数字は七福神とかけて縁起の良い数字でもあるし、レインボーの色数でもあるので私たちが目指す『偏見がなく誰もが受け入れられる場所』の名前にはぴったりでした。

アートや食を楽しんでもらうためにはお客さんにリラックスしてもらうことが何より大切だと思っているので、広々としていてリラックスできる空間を意識しています。日本はカフェでパソコン作業をしている人が多いイメージがありますが、日本人も外国人もお互いの文化に興味を持って話をしたい人は本当は多いと思うので、『7artscafe』ではお客さんが入ってきたら僕が必ず声をかけるようにしています。展示されている作品について説明しているうちに自然とコミュニケーションが始まるので、そういう温かい時間を提供していきたいです。

『7artscafe』は、『SDGs』、『ECO』、『LGBTQ+』、『DOG FRIENDLY』、『NO SMOKING』の5つを掲げ、大切にしています。SDGsやエコについては、大岡川の清掃や店内のリサイクルステーションの設置、テラサイクルへの協力などできることから取り組んでいます。

横浜は人口が多い街でありながら、世界的基準だとLGBTQ+があまり浸透していないように感じる部分があるので、そういった取り組みも積極的に行っていきたいです。テンプル大学からセメスターごとにきてもらっているインターン生とはミーティングをしながら活動内容を決めているのですが、その中の1人がレズビアンのことに興味を持っていたので、彼女の希望と店のニーズをすり合わせ、LGBTQ+のショートフィルムフェスティバルの企画も行いました。セメスターごとに違う人に来てもらっているので、お店にとってもとてもありがたく、活動の幅を広げることができています。」

いつか黄金町に多言語の案内所を

最後に、「7artscafe」の今後と、横浜、そして日ノ出町・黄金町エリアへの思いを聞いた。

アマトさん「ありがたいことに、朝からたくさんのお客さんに来ていただくことが多いです。DOG FRIENDLYなのでワンチャンを連れていたり、英語・日本語・中国語のメニューも用意しているので外国の方も多く足を運んでくれています。デリバリーサービスを始めたり、冷凍スムージーのネット販売に向けて準備もしているので、店内以外でも、特性ドリンクや健康志向のフードを楽しんでいただけるようになっています。

現在も毎週末のようにイベントを開催していますが、周辺のエリアにはTinys Yokohama Hinodechoやジャック&ベティ、若葉町ウォーフなど面白い文化施設がたくさんあるので、これから協力して色々なことをしていきたいです。

横浜は歴史がおもしろいまちですよね。埋め立てて作られた土地であること、かつて都橋商店街の近辺は大岡川を使って輸出する木材を航送するための場所であったこと、それが時の流れと共に変化して赤線地帯と呼ばれるようになったことなど、横浜の歴史にすごく興味があるので、そういった歴史を感じながら、大岡川沿いをみなとみらいの方へ歩くのが好きです。

『黄金町』については、正直に言うと少し勿体なく感じる部分もあります。15年以上アートイベントやバザールなどを開催していますが、外国人への認知度はあまり高くないように感じていて。外国人は日本の歴史的な街並みに惹かれる人が多いので、いつか黄金町エリアの昔ながらの建物に、多言語で対応できる街の案内所を作れたらと思っています。」

リラックスできる空間で、日の光を感じ、音楽に身を委ね、作品に目を奪われ、健康に気遣った食事を摂り、異なる文化を持つ人々と出会う。「everyone we accept」という言葉を何度も口にしていたアマトさんだからこそ作れたこの温かい空間は、これからも様々な人を受け入れ、豊かな時間を提供してくれるだろう。

取材・文/橋本彩香

【店舗紹介】
2021年7月にオープンした日ノ出町駅から徒歩4分のギャリーカフェ。健康志向のフードやドリンクメニューが充実しているほか、作品の展示や演奏会など様々な企画が行われ、多様な文化と人々が出会うハブコミュニティスペースとしても利用されている。
https://www.7artscafe.co.jp/

 

スポット情報

7artscafe〜セブンアーツカフェ〜

2021年7月にオープンした、ニューヨークのソーホーを思わせるようなオープンマインドで明るい雰囲気が特徴のcafe。
芸術、食、そして多様なバックグラウンドを持った人々が交流する文化的ハブとして、連日賑わいを見せている。

公式HP:https://www.7artscafe.co.jp/
運営会社:7artscafe Corporation http://www.7artscafe.co.jp