ローカルキーマン

かっ飛ばせ和田2023.03.23

伊勢佐木町

焼酎デビューをかっ飛ばせ!立ち飲み屋とアーティスト、2つの顔を持つ伊勢佐木町の焼酎ソムリエ /かっ飛ばせ和田 和田高幸さん(BOBさん)

全長約1.4kmのイセザキ・モール/伊勢佐木町商店街の通りを中心に、1丁目から7丁目まで、個性豊かなお店が軒を連ねる伊勢佐木町。そのもっとも奥側に位置する伊勢佐木町7丁目商店街の入口に、焼酎ソムリエがいる立ち飲み屋・「かっ飛ばせ和田」がある。以前ご紹介した日ノ出町駅前のクラフトビールとアウトドアギアとアパレルのセレクトショップ「ALL WELL」(https://culture.yokohama/spots/1886/)で働くラッパーの句潤さんがおすすめスポットとして紹介してくれたお店だ。

かっ飛ばせ和田の店主は、和田高幸さん。HIP HOPアーティストとしての顔を持ち合わせ、個人での音楽活動に加えて、横浜を拠点に活動するHIP HOP CREW「BAY HOOD」のメンバーとしても活躍している。立ち飲み屋の店主とHIP HOPアーティスト、2つの顔を持つ和田さんに、お店のこと、音楽のこと、そしてこの街のカルチャーについて話を聞いた。

 

地元・伊勢佐木町で、人が集う場所を作る

「かっ飛ばせ和田は、元々じいちゃんが時計屋をやっていた実家の建物を改装して、2018年9月にオープンしました。20年弱、横浜市内の酒屋で卸の仕事をしており仕入れについての知識はあったので、いつかみんなが集まれる場を作りたいという思いはずっとありました。店名の『かっ飛ばせ和田』は、3rd ALBUMの1曲目に収録した曲のタイトルでもあるんです。飲食店に関しては素人なので、『串揚げ和田』など特定の料理名を冠する名前はちょっと言い過ぎている気がして、曲のタイトルともかけて、景気が良く誰でも入ってきやすい名前になるよう店名を決めました。『かっ飛ばしいこうよ』と、お客さんがフレーズを使ってくれたら嬉しいですね。

オープン当初はカウンターオンリーの立ち飲み屋でしたが、試行錯誤しながらレイアウトも変化し、椅子があるテーブル席を作りました。外にも座席があるので、犬の散歩ついでに立ち寄ってくださるご近所の方も多いです。商店街の人通りが1番多いのは昼の時間帯なので、営業は15時~22時と早い時間にしています。」

「2000円でしっかり酔っぱらう」!安くて美味しいセットメニュー

かっ飛ばせセット(日替わりの串揚げ4本+ドリンク1杯)税込み1,000円。写真は左から、ツナチク、ヤングコーン、うずら卵、鶏むね肉。串揚げメニューは150円~200円で単品でも注文可能。

おつまみセット(日替わりの小鉢3品+ドリンク1杯)税込み1,000円

かっ飛ばせ和田に初めて訪れると、ひと昔前にタイムスリップしたかのような価格の安さに驚くはずだ。お酒に合うメニューはどれも本当に美味しいものばかりで、ついついお酒が進んでしまう。

「昭和くらいの値段で飲んでもらいたいという思いがあるので、市場で安くて良いものを仕入れて、『安くて美味しい』をモットーにメニューを考えています。お酒も基本的には濃いめで出しているので、他の店のダブルがうちのシングルくらいだと思います。串4本とドリンク1杯で1000円、小鉢3個とドリンク1杯で1000円という2種類のセットメニューがあるので、セットメニューを2つ頼めば、2000円で十分満足していただけると思います。テイクアウトにも対応しているので、桜の時期にテイクアウトしてもらって、大岡川でお花見をするのもおすすめです。」

単品のおつまみも充実。写真左:日替わりメニューの自家製さつま揚げ(100円)/右:大根ワサビ和え(100円)

 

在庫はなんと400種類!焼酎ソムリエが飲みやすい焼酎をご案内

「焼酎がメインの店にしたのは、この辺に焼酎に特化した店がないことと、自分が焼酎が好きだというのが理由です。いま店内に置いてあるのは100種類ぐらいですかね。倉庫にはまだ300種類ほど在庫があるので、せっかくならお客さんに見ていただけるよう、これから棚を増設し、店内1周、焼酎が並んだ棚にする予定です。店で扱っている焼酎は、自分で九州に買い付けにいっています。九州でしか売っていないお酒が飲めるのもウリですね。店にあるお酒は全種類飲んで説明できるようにしていますが、なんとなく説明するだけではパンチも説得力も弱いと思い、焼酎ソムリエの資格を取りました。

高いイメージ、臭いイメージをなくして、気軽に焼酎を楽しんでほしいと思っています。芋焼酎が苦手な人にもおすすめできる、リキュールっぽい焼酎やフルーツの風味を感じるような焼酎もあるので、若い子や女性にもぜひ飲みに来てほしいです。ソーダ割にして芋臭さを消すと飲みやすくなるので、そういった飲み方からスタートし、少しずつ段階を踏んで焼酎を好きになった方も多いです。『ソーダ割で美味しいやつ!』とオーダーしてくれる方も多く、相談していただければ飲みやすい焼酎をいくらでもご案内します。とはいえ、ビールやハイボールなどを飲むお客さんも多いので、焼酎が飲めなくてもぜひ気軽に足を運んでください。」

 

さまざまなジャンルの人が集い、遊び、何かが生まれる場所へ

かっ飛ばせ和田の店内の壁は、HIP HOPやレゲエ、ペインティングなど、様々なジャンルのアーティストのサインで溢れている。17歳でHIP HOPの世界に足を踏み入れて23年。和田さんのアーティストとしての活動についても話を聞いた。

「元々は地元の先輩がHIP HOP好きで、自分も自然とハマっていきました。横浜はすごい人たちをたくさん輩出している街なので、自分もそこでHIP HOPをやれているのは嬉しいです。上の世代の人たちが教えてくれて、それを繋いでいって、同世代や下の世代とも仲良くなって。周りの人たちは優しい人ばかりなので、自分は、横浜はHIP HOPをやりやすい街だと思います。どんなに売れても調子に乗る人が本当にいなくて、みんな変わらず優しいんです。かっ飛ばせ和田にはBAY HOODの仲間をはじめ、いろいろな人が来てくれます。自分が若い頃に、遠くの方からステージを眺めていた憧れのアーティストが飲みに来てくれたことがあって、めちゃくちゃ嬉しかったですね。

店内にはDJブースがあり、毎週日曜日はイベントを開催しています。自分は今年で40歳になりますが、クラブにあまり行かなくなった同世代の人や、クラブに行きたくても時間的に厳しい人が日曜日の夕方に1,2時間だけでも楽しんでもらえるよう、15時~22時の営業時間に合わせてDJイベントを行っています。引退して今は音楽をやっていない人もプレイしてくれたり、日曜日の昼から楽しめる、遊び場のような感じになっています。」

「HIP HOPに限らず、ギターライブ、歌謡曲イベント、ダンスイベントなどいろいろなジャンルのイベントも開催しています。歌謡曲のイベントでは、自分の友人が、山口百恵世代の歌謡曲から最近のポップスまでをDJでプレイして、歌いたい人がマイクを持って歌うというスタイルでした。その日は50歳以上の女性のお客さんが多く、チェッカーズを合唱していましたね。

この店で出会った人たちが仲良くなって、別の場所でイベントを開催したという話を聞くと、店をやっていて良かったなと感じます。開港祭は、横浜のいろいろな人が集まって盛り上がるイベントですが、その小さいバージョンのようなイメージで、店を上手く使っていろいろなジャンルの人が繋がって、ここから何か発信してくれたら嬉しいです。最近は横浜のクラブも少なくなってしまい、若い子がプレイする場所が減っていると思うので、ぜひ声をかけてもらって、うちでイベントをやってもらえたらと思います。」

 

見所たっぷりの伊勢佐木町7丁目

伊勢佐木町7丁目商店街にある子育て地蔵尊

この街で生まれ育ち、仲間と共にアーティスト活動を行い、そしてみんなが集まれる場所を作った和田さんには、横浜・伊勢佐木町はどのように見えているのだろうか。おすすめスポットと合わせて、街への印象を教えていただいた。

「横浜は人付き合いが多く、『良い田舎』というイメージが強いです。このあたりは月に1度町内会の集まりがあったり、2年に1度、伊勢佐木町7丁目から吉田町まで約60機のお神輿が通る祭りもあるので、町内の繋がりがしっかりしている町なのかなと感じています。伊勢佐木町7丁目商店街には、子育地蔵尊というお地蔵さんがあるのですが、商店街の中にお地蔵さんがあるのは全国でもかなり珍しいみたいです。このお地蔵さんは一六地蔵とも呼ばれていて、毎年6月から8月までは1と6が付く日に屋台が出て「一六縁日」というのが開催されます。自分はそれはけっこう好きですね。伊勢佐木町7丁目もすごく良いところなので、もっと注目される場所になってほしいです。

いつも仕事終わりに飲みに行くおすすめの場所は、吉田町にある「IRIE BAR(アイリーバー)」というお店です。レゲエ界のレジェンドで、自分もとてもお世話になっている先輩がやっているお店で、レゲエ界の重鎮をはじめ、本当にいろいろな方が飲みに来ています。イセザキ・モールの入口近くにあるお店なので、かっ飛ばせ和田の前の通りを歩いて仕事終わりに飲みにいき、ホッとひと息ついています。」

 

目指すは、横浜一の立ち飲み屋

最後に、アーティストとして、そしてかっ飛ばせ和田の店主として、和田さんの今後の展望を聞いた。

「個人の音楽活動は、1曲ずつ出して、PVを作って、たまにリリースライブをして、自分のペースでゆっくりやっていけたらと思っています。BAY HOODのグル―プとしては、アルバムを作ったり、ステージを打ったり、TIKTOKやYouTubeの企画など、今後もいろいろな活動をしていく予定です。

かっ飛ばせ和田に関しては、横浜一の立ち飲み屋、狙ってます(笑)。神奈川で一番焼酎の種類が多くて、焼酎に詳しいお店になりたいですね。4月7日に鹿児島から佐多宗二商店という酒蔵の営業の方に来てもらい、お酒の説明を受けながら、その場で佐多宗二商店が全種類飲めたり、酒造瓶を購入できるイベントを開催します。18時半から21時まで4000円で飲み放題で、佐多宗二商店の焼酎はもちろん、うちに置いてあるお酒も全部飲み放題になるかなりお得なイベントになる予定です。酒蔵の方をお呼びしてイベントをするのは今回が初めてで、上手くいけば年に4回くらい、九州の酒蔵を呼んで同様のイベントを開催していけたらと思っています。ぜひ焼酎好きな人に来てもらい、そこから輪が広がったら嬉しいですね。」

「ありがたいことに音楽仲間もたくさん店に来てくれますが、HIP HOPやレゲエに対してガラが悪いというイメージがある方もどうしてもいると思います。実際はみんなめちゃめちゃいいやつで、5年間店をやっていて、喧嘩やいざこざが起きたことは一度もありません。アットホームな雰囲気で、優しく楽しく飲んで帰ってくれたら何よりだと思っているので、構えず、1杯だけでも気軽に飲みに来てほしいです。いろいろなジャンルの方に集まってほしいので、おじいちゃんおばあちゃん世代の方も、散歩がてらにぜひ立ち寄ってもらえたらと思っています。」

柔らかい物腰で、焼酎のこと、HIP HOPのこと、そして横浜のことを話してくれた和田さん。広い店内に一歩足を踏み入れれば、壁一面に並んだ焼酎瓶に、きっとあなたも胸が高鳴るだろう。焼酎にあまり馴染みがない方も、ぜひ焼酎デビューを「かっ飛ばしに」、気軽に店を訪れてみてほしい。

 

取材・文/橋本彩香