ベルリン

アート×食がまちを、社会を面白くする。ベルリンのアート団体「Entretempo Kitchen Gallery」による美味しい実験

 コミュニティをつくり、市民参加を促す手法のひとつとして、アートはまちづくりの現場に定着してきました。空き家を活用したアーティストインレジデンスの試みや、アートフェスティバルによる賑わいの創出、アートプロジェクトによる住民参加の促進など、アートが持つ可能性は無限大です。

そして、アートと同じように、人を惹きつけ、コミュニティをつくる効果があるのが、「食」。誰もが食べる必要があり、誰でも美味しいものが好きだからこそ、食は多くの人を巻き込む力があります。今回は、食というテーマをアートと結びつけてベルリンで活動する団体「Entretempo Kitchen Gallery」の事例から、アート×食の可能性を紐解きます。

食とアートによる社会への問いかけ

Entretempo Kitchen Galleryの創業者であり、 Food Art Weekの発起人でもあるTainá Guedesは、ベルリンを拠点に活動するアーティスト&フードアクティビスト。アートはキッチンの拡張であり、アイデアの表現や交換のために、「食」が私たちの共通基盤となると話します。

彼女らが主宰するFood Art Weekは、「Because we see food in art and art in food(なぜなら私たちはアートに食を、食にアートを見出すから)」をテーマにベルリンで毎年開催されるフェスティバル。アート×食をテーマに、展示会や食事会、パフォーマンス、レクチャー、ワークショップを行い、社会問題や環境問題にアプローチします。

Entretempo Kitchen Galleryの活動が面白いのは、栄養を得るための単純な行為として食を捉えるのではなく、食がもつ政治的側面や社会的影響力、そして、歴史を物語る側面に注目している点です。だからこそ、美味しい食べ物を提供すること以上に、その背景にある社会的な意味や、食から生まれる対話を大切にしています。

食料廃棄物で料理をする「Cooking with leftovers」や、フランスの哲学者ヴァルター・ベンジャミンの著作にインスパイアされた料理を振舞う「Fictitious Dinner」、目隠しをして暗闇のなかで食事を行う「Blind Dinner」、感情や記憶を食という観点で再現する展示会「Supermarket of Emotions」など、Entretempo Kitchen Galleryの過去の事例は、インスピレーションの宝庫です。

Cooking with leftovers(写真:Entretempo Kitchen Gallery)

「食」に目を向けるという視座

「デザインは人のためのものなのになぜ、人にいちばん近い食のデザイナーがいないのか?」
この問いは、「イーティングデザイナー」を肩書きに活動するマライエ・フォーゲルサングさんによるもの。食領域のデザイナーとして、空腹を満たすだけの食から、「食べること」を通じて人や社会と繋がるための仕掛けを、展示やワークショップなど、独自の活動を通して生み出し続けています。コミュニケーション・デザインの視点からお弁当をとらえる「BENTO おべんとう展」(東京)では、ソーシャル・ツールとしてお弁当を捉え、日本の文化や歴史、社会課題などに紐付ける実験を実施しています。

Food Design(写真:Entretempo Kitchen Gallery)

「食はシンプル。だからこそ、食を介せば、つながりやすい」というマライエさんの主張は、誰もが関与しうる食という観点からアート活動を行うEntretempo Kitchen Galleryの活動にも、通底するものがあります。また、建築家・キャロリン・スティールも同様に、食という要素を、都市やまちづくりの現場に持ち込むための活動をしています。

都市における食文化を考える。これからのまちづくに必要なのは、アートだけでなく、食かもしれない

小さなことから、大きな課題は解決できる」と、Taináは話します。マインドフルネスのための料理本を出したり、廃棄されたパンを使ったインスタレーションの制作など、食を通したソーシャルグッドな活動を行う彼女。食のシステムのグローバル化により様々な課題が生まれる今、私たちにとって一番身近な行為のひとつである食からさまざまな課題に取り組めば、多くの人を巻き込めるかもしれません。

新型コロナウイルスの影響で、外食がしにくくなったり、輸入食品が値上がりしたりと、私たちの食に関するライフスタイルは、大きく変化しました。都市と食の関係や、食に関するライフスタイルの変化、食から始まるまちや社会の活性化など、Entretempo Kitchen Galleryをはじめとした彼女たちの活動から、学ぶことが多くありそうです。

 

(許諾・転載:Traveling Circus of Urbanism / Photo ©︎ MARIKO SUGITA)