ナント

機械仕掛けの象が歩く街。ナント島のアート思考な再生プロジェクト

アートで街を再生というと、高尚で難しそうな印象ですが、フランスのナント島の再開発プロジェクトでは、アートをみんなが楽しめるアミューズメントとして、街のシンボルと活性化に役立てています。閉鎖されたみすぼらしい造船所跡地は、再開発されて活気に満ちた複合施設に生まれ変わり、機械仕掛けの象が歩くアートな街と評判になりました。

住民参加の再開発

フランスの住みたい街として人気のナントは、パリからTGVで約2時間のフランス西部の街で、「アートと文化」を中心とした都市計画がヨーロッパで高く評価されています。

ナント島(L’île de Nantes, イル・ド・ナント)は、ナント市を流れるロワール川の中州エリアです。北を流れるマドレーヌ川と南を流れるピルミル川という、2つのロワール川の分流に取り囲まれています。島は東西4.9km、幅は最大1kmほどで、3,370平方キロメートルの面積があります。

© Vjoncheray via: urbanism.orgpermod.com

かつて造船業で栄えていたナント島は、1970年〜80年代にかけて経済停滞の時代を迎えます。1987年に島の造船所で建造された最後の船が船着き場を離れると、工業が盛んだった島の西側は荒地となってしまいます。

ナント島の再生プロジェクトは、広大な工業地帯の跡地を、持続可能な生活環境とビジネス環境に変えることを目的としています。また、1987年に閉鎖された地元の造船業に代わる、クリエイティブな芸術地区に魅力的な企業を誘致することも企図しています。

2037年に完成予定のナント島の再開発は、SAMOAとして知られる公共開発会社がディレクションしています。「創造性」、「革新性」、「集団の遊び」を中心として、市民のニーズに合わせた新しい公共空間を、発明しテストし共同構築しています。

SAMOAは、ナント島の都市開発と文化・クリエイティブ産業の開発という2つの分野において、日常的に生活する人々のニーズに適応した都市を創造するための施策を展開しています。持続可能な島のためのマニフェストに基づき、実験的なプロジェクトや新しいアプローチを4つの主要な方向に向けています。

  • 公益の目的のために住民が協力して何かを行う文化
  • 新しい形のモビリティ(移動手段)
  • 利用者のウェルネス
  • 場所のレジリエンス(エコロジカルフットプリントや再利用など)

具体的には、マニフェストは、住んで、働けて、気持ちよく歩ける、快適な場所の実現のための街づくりのアプローチに基づいています。

SAMOAは、クリエイティブと新しいテクノロジーを組み合わせた実験を実施しています。実験には、事業者、スタートアップ、市民、コミュニティが同時に動員されます。実験は一定期間、公共の場やプライベートなスペースで行われ、ユーザーはテストされているプロジェクトについて意見を述べることを求められます。最後のプロセスでは、SAMOAとそのパートナーによって調査・評価フェーズが実施されます。
これらの実験は、3つの目的を持っています。

  • 都市の課題に対応するための新しいデバイスのテスト(テクノロジー)
  • 技術革新を試したいボランティア企業への機会の提供(スタートアップ)
  • 都市づくりへの市民の関与(エンゲージメント)

ナント島は都市イノベーションのための実験空間として、市民が公共スペースの開発に関与するための革新的な方法を導入しています。都市プロジェクトは当初から市民を巻き込むことを重視しており、住民、経済活動家、ビジターは、都市デザインや公共空間の開発に様々な形で参加し、実験することに密接に関わっています。

SAMOAは2017年、「デモンストレーション地区」と呼ばれる実験プログラムを開始しました。このプログラムでは、「インテリジェント・サードプレイス」(複数の用途が交差する新しいハイブリッド空間とテクノロジー)と、「コネクテッドストリートと共有スペース」(都市のウェルビーイングに適応した公共空間のデザイン)という2つの分野に焦点を当てています。

機械仕掛けの象が島のシンボル

ナント島と言えば、巨大な機械仕掛けの象「グランド・エレファント」が世界的に有名です。象は、島の西側の造船所だった場所に造られた機械仕掛けの遊園地、「レ・マシーン・ド・リル(Les Machines de L’ile)」を棲家としています。

グランド・エレファントは、高さ12m×幅8m×全長21m、重量48.4トンという怪獣並みの巨体を持ち、鋼と木材(チューリップポプラとバスウッド)から造られています。定期的に最大50人の乗客を乗せ、歩きながら鼻から水を勢いよく噴射させて、3つのコースで島を30分かけてツアーしています。センシティブなお子さまが出くわしたら、一生トラウマになりそうな存在感です。

レ・マシーン・ド・リルの機械仕掛けのアートを手掛けるのは、フランソワ・ドゥラロジエール(Francois Delarozière)を中心とするアート集団「ラ・マシン(La Machine)」。広大なギャラリー「Galerie des Machines」では、「ラ・マシン」がナント出身のSF作家ジュール・ヴェルヌの世界観を表現した恐るべき機械アートの数々を見学することができます。

このスチームパンクのワンダーランドのようなギャラリーでは、翼の長さが8mもあるサギが優雅に舞い上がり、2人乗りの巨大クモが糸を登っていきます。

1人乗りのイモムシ、ナマケモノ、巨大なハチドリと雁の群れ、機械植物、ジャイアント蟻など様々な機械仕掛けの生き物がうごめいています。時速100km以上で飛行する「空飛ぶノミ」は、速すぎてよく見えないかもしれません。

ジュール・ヴェルヌの代表作『海底二万哩』の世界観を表現した、3階建ての巨大なメリーゴーランド「海の世界のカルーセル(Carrousel des mondes marins)」の内部も不思議な威容を誇っています。

プレイスメイキング

ナント島の都市プロジェクトでは、公共空間の計画・設計・管理に関する「プレイスメイキング」のアプローチの採用と、住民チームが参加する協議会で、住民をプロジェクトに参加させる新しい方法が開発されていることが特徴的です。

機械仕掛けの巨大象というシンボルで、ナント島をアートの街として再定義できたことが、都市再生の成功要因として大きいでしょう。街のシンボルや名物を持つことが、都市のブランディングとアイデンティティ開発に有効であることを証明したプロジェクトと言えます。

Via:
iledenantes.com
urbanism.orgpermod.com
lesmachines-nantes.fr