カルチャースポット
カフェ2020.11.27
三ツ沢
カフェバー、ギャラリー、ライブハウス 複数の顔を持つ都会の逃げ場
逃げBar White out
ブルーラインの三ッ沢下町駅から歩いてすぐのところにある、一面真っ白な不思議な空間「逃げBar White out」。今年1月にオープンしたばかりのこのお店は、カフェであり、バーであり、ギャラリーであり、ライブハウスでもあり。様々な顔を持ち合わせることで、現代社会の「逃げ場」を創り出している。
忙しない街中から気軽に逃げられる場所を
逃げBarを運営するOzone株式会社の代表で、オーナーの雨宮優さんに、逃げBarを作ったきっかけを伺った。
「ちょっと生きるのが辛いなと感じた時に、カフェやバーのようにふらっと逃げ込める場がほしいなと考えたのが、逃げBarを作ったきっかけの1つです。都会はすごく意識が渦まいていて、どこに行っても人の声やSNSの通知が聞こえたり、とにかく情報が溢れている。自分をクリアに俯瞰できる環境がないなと感じていました。
そういうものから逃げ込めるのは本当は森や海など自然がある場所だと思うんですが、東京の近くにそういう良い場所ってあんまりなくて。30分以内で行ける横浜くらいの場所に、自然に近い感覚になって自分をリセットできるような、ノイズキャンセリングできるような場所があったら良いなという思いがあって、この場所に逃げBarを作りました」(雨宮さん)
逃げBarには、心地よく「逃げる」ための工夫がたくさん。そのなかの1つが逃避交換日記だ。来店した方は誰でも自由に書くことができるこのノートには、心のなかに渦巻いている感情をそっと吐き出したような文章や、逃げBarへのメッセージなどが書かれている。ところどころに書かれている雨宮さんの素直な言葉によって、きっと来店した方も素直な気持ちを綴ることができるのだろう。ページをめくる度に、辛さや孤独感を誰かと分かち合えたような気がして、ちょっぴり心が軽くなる。他にも、顔バレせずに「逃げる」ための絶滅危惧種のお面、仮眠をとることもできる棺桶、表紙をすべて白のブックカバーで覆った本の本棚など、興味深い仕掛けが随所に盛り込まれている。
サイレントフェスも開催

FULL MOON SILENT FESでDJをする雨宮さん
さらに逃げBarは、Ozoneが企画制作を行う、ヘッドフォンを付けて参加する音楽イベント「サイレントフェス」の会場としての役割も担っている。地下で、暗くて、お酒がある、というアンダーグラウンドなイメージが強い既存のクラブの概念をすべて逆転させた、1階で、明るくて、ノンアルコールドリンクが飲める真っ白な箱、というのが逃げBarの特徴だ。
フードメニューには、Ozoneが過去に開催したマッドランドフェスの会場となった千葉の畑の野菜を使用している。メニュー表には農家さんの顔写真と紹介文が書かれているほか、記載されているQRコードを読み込むと農家さんのメッセージが動画で再生されるなど、生産者のストーリーを感じながら食事ができる工夫が施されている。ビーガン対応のベジメニューや、アメリカの西海岸エリアで、アルコールに代わるもう1つの選択肢として親しまれているナチュラルエナジードリンク「エリクサー」など、ここでしか出会えないメニューも。フェスを意識して、偏りがなく幅広い選択肢を用意しているのが、逃げBarのこだわりだ。
#卒業できなかった制作展

過去に逃げBarで開催された個展の様子
オープンして1ヵ月余りでコロナの波がやってきたが、コロナ禍にあわせて生まれた企画もあるという。SNSで話題を呼んだ「#卒業できなかった制作展」もその1つだ。新型コロナウイルスの影響で、中止、あるいは来客が大幅に少なくなってしまった昨年度の卒業制作展。学生生活をかけて作った作品が、誰かに届くように。そんな思いから、逃げBarを会場に、複数の学校合同の卒業制作展を企画し、SNSで発信した。予想を超える賛同が集まり、有志の事務局が開設。クラウドファンディングを実施するなど、来年2月の開催に向けて準備を進めている(「#卒業できなかった制作展」は2021年2月12日~19日に開催予定)。
気軽に逃げ込み、音楽を楽しめる場所へ
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雨宮優さん
「気軽に逃げにいらしてください。横浜ってふらっと入って音楽を楽しめる場所が意外と少なくて、逃げBarを作った当初は、普段クラブとかに行けないような人も気楽に逃げ込めてクラブミュージックを楽しめる場所にしたいという思いがあったので、1つのクラブ、ライブハウスとしての利用がもっと増えたら嬉しいなと思っています」(雨宮さん)
※レンタルスペースとしても貸出中のため、イベントスケジュールはHPにて要確認。
カフェであり、バーであり、ギャラリーであり、ライブハウスでもあり。複数の要素を持ちながらも、シンプルで居心地の良い空間は、まさに「逃げBar」という新しいジャンル。あなたも忙しない毎日に行き詰まった時、ぜひこの逃げ場を思い出してほしい。
取材・文/橋本彩香