ローカルキーマン

アート2022.01.20

黄金町

「都市ってカッコイイ」その気付きから始まったアートの道

黄金町アーティスト金子 未弥さん

「都市」とは一体なんなのだろうか。その真理を追い求め、「都市」を自身のテーマとしたアーティストがいる。

2017年より、黄金町エリアマネジメントセンターのアーティストインレジデンスに参加されている金子未弥(かねこ・みや)さんだ。

多摩美術大学大学院の美術研究科博士後期課程を修了し、博士号(芸術)を取得。2017年に「Tokyo Midtown Award 2017」でグランプリを受賞した。

大学では工芸科で金属を専攻していたが、現在はインスタレーションという方法でさまざまな表現を行っている。

金子さんが取り組む「都市」というテーマについて、そして横浜の魅力、これからの展望について聞いた。

ある日突然「都市は人間が作ったんだ」と気がついた

「都市をテーマにやり始めたのは大学を卒業して大学院に進んだころです。
外を歩いていてふと目に入った住宅のドアや門、その中にあるであろう階段や窓、家を出てみれば道路やフェンスがある。『この圧倒的な物量を人間が作ったんだ』ということに気がついて、『都市ってすごいな』って思ったんです。

人間は多分、都市以上にカッコイイものは作れないんじゃないかなと思うんです。そこからずっと、『都市って何なのかな』ということを考えながらやっています。

もともと構造物には興味があって、それまでもなんとなく都市を見てはいたのですが、そのカッコよさにハッと気がついたときに、自分が好きなものを自覚したんだと思います。

今は都市に住んでいる人、その人たちが持っている記憶から私が話を広げていって作品にしたり、ワークショップをしたり。

その過程で、『これでよかったのかな』と思うことはもちろんあります。私がやりたかったことは本当にこれなのか。もっと別のことじゃないかな、って思ったときは『じゃあ今度はこうしてみよう』と次の作品につなげていく。だからこうやって続けていられるのかもしれません」

金子さんにとっての横浜とは

「黄金町のレジデンスには、制作する場所が必要だったこと、実家からも近いこともあって入ることを決めました。黄金町バザールが有名だったし、私の先輩がレジデンス作家として入っていたというのもあって、存在は知ってはいたんです。

もともとこのあたりがどういうエリアだったのか、ということもなんとなく知ってはいたんですが、実際にここで活動してみると、外で遊んでいる子どもの声とか、人の話し声とかを聞いているうちにだんだんとイメージは変わってきましたね。なんだろうな、人の生活感がちゃんと感じられるというか。

実家も横浜にあって、馴染みの深い街です。横浜はどういう街か、ってよく聞かれるんですけど……横浜の名物を聞かれたときに皆さんはどう答えますか? パッと出すのが難しいな、と思いつつ、私は最近シュウマイって答えるんですけど。でも別にこれといった確信もなく、そう答えてしまっていて、このもやもやは何だろうってずっと考えてるんです。

横浜って何を食べてもおいしいじゃないですか。中華もあるし、カレーもあるし、洋食もある。だから『名物ってなに?』って聞かれると、すごく難しいんですよね。横浜という街自体もそういう場所だな、って。さまざまな人や文化が、長い年月をかけて混ざり合っては共存することで、横浜という街が成り立っているんだと思うんです。ちょっと抽象的で申し訳ないんですけど(笑)」

今でも都市のことはわからない

「都市をテーマに作品を作っていく中で、その都市に住んでいる人の目には見えない記憶も『都市』を構成する要素になると私は思っています。もしかしたら、記憶によって都市の雰囲気や、歴史が作られていくのかもしれない。そういうところから都市の姿を描けるんじゃないか、って思うんです。

そう思ったきっかけが2017年。アトリエのドアに『地図を私にください』と紙に書いて張り出したんです。そしてその地図に書かれている都市の名前をすべて刻印する、という作品を制作したんですが、地図を持ってきてくれた人たちはみんな、『どうしてその地図を持ってるのか』という話をしてくれるんですよ。『自分が初めて旅行に行った場所なんですよ』とか『初めて仕事で海外に行った』とかおまけの話が必ずもらえるんです。それが最初に面白いって思った瞬間かな。

こんなにいろんな話があって、その話を聞いて制作したら、私はもしかしたら『都市』というものがわかるんじゃないかって、おこがましいけど思ったんです。

Tokyo Midtown Award 2017グランプリ受賞作品『地図の沈黙を翻訳せよ』©Hirofumi Tani

Tokyo Midtown Award 2017グランプリ受賞作品『地図の沈黙を翻訳せよ』©︎Motohiko David Suzuki

でも、作り始めたら『もう本当に都市が分からない!』ってなって。その作品が「Tokyo Midtown Award 2017」でグランプリをいただいたんですけど。

今でも都市のことは分かりません。分からないから作っていられるんだと思います」

コロナ禍でまた新しい作品を作り出せた

「コロナ禍での時間は貴重なものになったな、と思います。のんびりと描いて、それが次の作品に繋がっていく。そんな機会は、なかなかないじゃないですか。

あと、コロナ禍で、『人と話してはいけない』という最初の空気から、電話を使ったワークショップを思いつきました。道路に面したガラス張りの小屋で制作をするんですが、そこに訪れた人に電話をかけてもらう。「あなたにとって重要な場所や、印象に残っている場所の話をしてください。その話から地図を想像して描きます」という質問を投げかけて、場所に関する思い出話をもらうんです。

『未発見の小惑星観測所』©︎Yasuyuki Kasagi

『未発見の小惑星観測所』©︎中川達彦

抽象的なことを聞くので、すごく考えながら話してくれるんですよ。思い出そうとしながら話すので時間もかかるし、言葉にも詰まる。でもそういうのってすごくリアルなんですよね。人の声ってさまざまなことに気がつかせてくれるし、人との会話が憚られたコロナ禍で、対面でしか得られない人間らしいコミュニケーションだと改めて気がつきました」

挑戦したいことはつきない

「同様に人から話を聞きながら作品を制作していた時に参加者から、『思い出せない場所があるんですよ』と言われたのが衝撃的だったんです。私は人の記憶から都市ができるんじゃないか、って思ってやっていたのに、忘れてしまった場所があるなんて!って。

その場所がないというわけではないんですけど……人っていろんなことを忘れるし、忘れてしまっていることはわかっている。穴がぽっかり空いてしまったみたいな、空洞ができているような。それをどういうふうに表現できるのかな、というのが直近の目標ですね。

あと、ワークショップは今後も形を変えながらずっと続けていきたいですね。できるだけいろんな人と話をしてワークショップをすることも作品になるんじゃないかな、と思っているので。

都市は常に変わっていきます。だからおもしろいし、続けていけるんだと思います」

黄金町アーティスト金子 未弥さん

1989年神奈川県生まれ。2017年多摩美術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。「人の記憶も都市を構成する要素であるならば」という考えのもと、人々の記憶にもとづいて実在しない都市を思い描く。
工業用資材を用いたインスタレーションや、ワークショップを行って参加者の記憶や経験を辿りながら見えない都市の姿を顕在化させるなど、
多様な手法で都市を追求した作品を発表している。

「MIND TRAIL奥大和 心のなかの美術館」(奈良県天川村、2021年)
「FUTURESCAPE PROJECT」( 象の鼻テラス、横浜、2021年)
「黄金町バザール2021」(京急高架下、横浜、2021年)
「都市計画」 (BankART U35 2021, BankART KAIKO、横浜、2021年)
「ラウンドテーブル2020 遊具―遊び心をくすぐる―」(KOCA、東京、2021年)

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