ローカルキーマン

まちづくり2022.10.28

高根町

まちを学び、まちを楽しむ。粋な下町商店街を拠点にまちを編集する学生たち/下町編集室OKASHI 小林璃代子さん、長縄旺介さん、鈴木茉凜さん

 

「粋な下町商店街」と称される横浜橋通商店街は、全長360mの通りに100店舗以上が軒を連ね、令和の時代においてもなお多くの人に愛される商店街だ。この商店街にある空き店舗を拠点に活動する学生コミュニティが「下町編集室OKASHI」。専門分野の異なる学生たちが集い、「場づくり」と「アーカイブ」を軸に活動を行っている。粋な下町商店街の一員として、そして横浜の学生として、様々な活動を行う彼らにはこの街はどのように見えているのだろうか。活動のこと、街のこと、そしてこれからのことについて、共同代表の小林璃代子さんと長縄旺介さん、そしてメンバーの鈴木茉凜さんに話を聴いた。

商店街の元「お菓子」屋さんを拠点に

小林さん:横浜橋通商店街との関わりは、高校生の頃にボランティアとしてイベントをお手伝いしたのが始まりです。2018年当時は横浜橋通商店街について発信する媒体がTwitterしかななく、商店街の歴史やイベントに携わる方々の想いなどを紹介しようと、ボランティア仲間の学生と私でフリーペーパーを制作したのがOKASHIの源流です。

その後も年に1度のペースで制作を続け、だんだんかっこいいものを作りたいという欲が出てきたので、同じ大学でまちづくりを専攻している長縄さんと高校の同級生でデザインを学んでいる鈴木さんに参加してもらい、5人体制で第4号を制作しました。

2021年5月に、横浜橋通商店街の理事長さんから、フリーペーパーを制作したメンバーで商店街の空き店舗を使ってみないかと声をかけていただき、冊子の編集作業を行いつつ、様々な方法で活用しようと場を借りることにしました。人が集まり、場もできたことで任意団体のようになったので、団体名を決め、2021年7月15日に「下町編集室OKASHI」として活動をスタートしました。

長縄さん:空き店舗が元々お菓子屋さんだったこと、フリーペーパーの編集をしていたメンバーであること、横浜橋通商店街が「粋な下町商店街」と呼ばれていることから、「下町編集室OKASHI」(以下、OKASHI)という名前を付けました。

小林さん:お菓子に加えて、「をかし」の意味も含んでいます。色々な人がいる商店街のなかで、一人一人の好きという気持ちにフォーカスしたらもっと多様な繋がりが生まれるのではと考え、一人一人が楽しめるコンテンツで場所を使っていきたいという思いも込めて「OKASHI」という名前にしました。活動するうちに繋がりができ、さらにメンバーが増えました。デザイン、建築、保育、国際関係と専門分野は様々で、それぞれが得意分野を持ち寄って活動しています。

活動の軸は「場づくり」と「アーカイブ」

小林さん:横浜の人口減少が話題になっていますが、空き店舗を拠点にしていることもあり、「空いていく場所をどう使ったら、色々な国の人、色々な世代の人がいる横浜橋通商店街がもっと楽しい場所になるだろう」という問いから「場づくり」というひとつの軸が決まりました。

長縄さん:「アーカイブ」は、町の歴史や人々の生き方をまとめるという意味でこの言葉を選んでいます。僕はまちづくりを専攻していて場づくりに興味があるし、アーカイブに興味があるメンバーもいるので、みんなが興味のあるものをまとめた結果、場作りとアーカイブという形になりました。

小林さん:横浜橋通商店街の周辺は、隣接している元々遊郭だったエリアも含め、過去の情報や史料があまり残っていないし、商店街の店主さんたちはこれからのまちづくりのヒントになるようなことをたくさん考えているけれど、そういった想いはあまり表に出ていないので、歴史や想いを形に残すことに活動の意義を感じて燃えました(笑)。

街で出会った人と共に、やりたいことを形に

小林さん:OKASHIができて1ヵ月後に開催した写真展に来てくれた台湾出身の方と意気投合し、「台湾市場リーホー」(2021/11/06-11/07)というイベントを企画しました。他にも、商店街の路地裏にあるタイ料理屋さんで席が隣になり話をした絵描きさんお二人に場を活用していただいた「森田ひろみ 秀小牧 二人展 ようやく神無月に集う」(2021/10/9-10/17)、大通り公園で毎月行われているクリーンアップ後に横浜橋通商店街と周辺を案内した「横浜橋通商店街ミニツアー」(2021/11/05)など、秋は色々なイベントを開催しました。

鈴木さん:1月と2月には自分たち発信の企画で「陶器と古着市」を行って、その時に声をかけてくれた中国出身のマンジョさんという方と後日火鍋パーティーをしました。イベントを開催することで色々な人と繋がっていくなと感じています。

小林さん:火鍋パーティ楽しかったね。お店が揃っているので、食材は全て横浜橋通商店街で買ったんです。マンジョさんとは映画の話でも意気投合して、「横浜橋まちかど劇場」(2022/04/02)という映画上映イベントを開催しました。最終的に街に還元される活動であれば、幅広く色々なことをやらせてもらっています。

長縄さん:自分たちがやりたいことをやる、地域で出会った人と一緒にやりたいことをやるという気持ちを大事に活動しています。自分たちがやりたいことを形にしていくなかで、結果的に何かが地域に還元されたらいいなというスタンスです。

イベント開催や冊子の制作以外にも活動を行っているOKASHI。その一つがチャリ移動本棚「吉田くん」だ。吉田くんは、東京の町田市を中心に全国100ヶ所以上に展開しているまちに本棚を設置するプロジェクト「きんじょの本棚」に加盟しており、現在はTinys Yokohama Hinodecho(以下、Tinys)に滞在している。

小林さん:東京の三ノ輪の商店街で同じタイミングで同じような活動を始めた「みのわまちづくり工房」という学生の団体があるのですが、その人たちと熱量が重なって、自転車で移動できる屋台をそれぞれで作ろうという話になりました。自分たちは屋台に何を入れるか考えたときに、「アーカイブ」をひとつの軸にしているので、本に関わるものがいいんじゃないかという話になって。いざ本棚の形を決める時に、「私、吉田新田が好きなんですけど…形、似てない!?これ本棚じゃん!」って話をしました(笑)

長縄さん:たまに僕が「吉田さんですか?」と聞かれますが、吉田新田から名前をとって「吉田くん」です(笑)。

小林さん:本棚の半分は自分たちで選書して、場づくりに関する本や、手に取った人が横浜の街を歩きたくなったり歩いていて目線が変わるような本を揃えています。もう半分は全国各地のきんじょの本棚をグルグル回っている本です。(きんじょの本棚の本は、どこの店舗でも返却が可能)

長縄さん:吉田くんが最近あまりお出かけしていないので、もっと連れ出したいですね。横浜橋通商店街やTinys周辺はまさに吉田新田だし、平地で運びやすいので、もっと街を周遊したいです。

横浜橋通商店街は独特な賑わいと人情がある街

小林さん:高校時代に横浜橋通商店街と関わり始めた頃は、閉店後に店主たちが集まってイベントの企画を立てたり、イベントの日に「大人も縁日を楽しもうぜ」と通りに大きい机を並べて飲んだり食べたり演奏したりしていて、すごく面白いなと感じました。下町らしい「何とかなるぜ」というノリや雰囲気にも憧れていましたね。OKASHIの活動を始めると、フリーペーパー作りでお世話になった方が、イベントを開催するときに色々教えてくれたり差し入れをくれたりして、人情がある街だなと感じています。

長縄さん:僕の地元は静岡の郊外で周りに商店街がなかったので、「商店街ってどんなものかな?」と思いながら足を運びました。横浜橋通商店街は外国のお店が多く独特な賑やかさがあって面白いです。最近はこれほど栄えている商店街はなかなかないし、この賑やかさに興味を持ってこの活動に飛びついたところがあります。

小林さん:大通り公園で将棋をやっている年配の方がよくいらっしゃるのですが、こんな風に街を楽しく使っている大人たちがいる場所は、横浜では珍しくて貴重だなと思います。

鈴木さん:街中で将棋を指していたり国籍問わず色々な人が集まっていたりと独特な雰囲気ですが、街の人と話をすると深い話を聞くことができて面白いです。昼間は将棋をしていた人たちが夜は誰もいなくなって、静けさの中に商店街の灯がついてると「あぁいいなぁ」と思います。昼と夜で景色が全く違うものになるので、その違いにすごく惹かれます。

小林さん:横浜橋通商店街の近くにはかっこいい銭湯があったり、三吉演芸場の公演はカルチャーショックだったけどすごく楽しかったり、一般的な「横浜」のイメージとは異なる新しい楽しみ方ができるスポットもたくさんありますね。

長縄さん:あまり知られていないからこその魅力があるよね。ゼミの同期に横浜橋通商店街のことを聞いたら、「来たことない」、「知らなかった」と言っていて。でも、知られていないことで、秘密基地じゃないですけど、自分たちの居場所のようになっている気がします。

鈴木さん:横浜橋通商店街と深く関わるようになったのはフリーペーパーづくりに携わってからですが、活動することを親に話したら「え、横浜橋通商店街なの?」とあまり良い反応ではなくて。この辺りは昔はあまり良いイメージがなかったこともあって、近くにいる人にも意外と今の街の雰囲気がまだ知られてない部分もあるなと活動を始めて感じています。

小林さん:商店街のお店も入れ替わっているし、マーケット沿いに大きいマンションもできて、横浜橋通商店街も少しずつ変化しています。変わっていく街のなかでも、場づくりと記録を残す作業は続けていきたいし、街の良い面や歴史的文脈を記録して今後発展していく際の資料になったらいいなと思っています。

下町編集室OKASHIだからできること

小林さん:メンバーはそれぞれ興味を持っていることや得意分野があるけれど、就職をしたら本職は別のことになると思います。だけど好きなことややりたいことがあって、それは個人だと実現するのが難しくても、団体であればできることがあると思うので、自分たちがこれから社会に出ても、どこかに残っている学生時代の問いややりたいことを発散できる受け皿として、団体はこのまま続けていきたいです。

鈴木さん:私は来年就職するので今と同じように活動はできなくなってしまいますが、きっぱり辞めることはしたくなくて、仕事以外で好きなことや人と関わることのできる居場所としてOKASHIがあってほしいと思っています。深く活動はできないかもしれないですが、それでも浅すぎず関わっていきたいです。

長縄さん:僕は進学予定なので今後もしばらく学生ですが、「下町編集室OKASHI」という肩書きがあるからこそできることがたくさんあると感じているので、今後もそれを活かしながら活動していきたいです。

最後に、日ノ出町・黄金町エリアの好きなところを教えていただきました。

小林さん:日ノ出町・黄金町あたりはイケてるなと思います(笑)。横浜橋通商店街から景色を見ながら歩いてきて、川を渡って、黄金スタジオでおしゃれなイベントをやっていたり、コーヒータローさんがいたりすると、気分がすごく上がります。

大岡川はカーブしているからか、それぞれの橋ごとに景色がが違いますよね。黄金橋あたりは立ち止まってボーっとすることができて、景色を眺める時間が好きです。イベントがあるときは賑やかで楽しいし、普段はシャルドネ(初音町にある洋食屋)などでゆっくりご飯を食べることもあって、特別な日も日常も楽しめる街だと思います。

 

取材・文/橋本彩香