スペシャル対談

音楽2021.04.28

横浜

瑛人、「香水」ヒットの喜びと苦悩を地元横浜で分かち合って。

シンガーソングライター瑛人さん

「GRASSROOTS」オーナー佐間田伝伸さん

「三日住めばハマっ子」

そう言ったのは横浜出身のコラムニスト故青木雨彦だそうだ。開港によって急速に発展した街には、何代にも渡って住み続ける民だけでなく、新しい風も必要だったということか。
確かにこの街への愛着は3日も過ごせば全身に染み渡るのだから、もしもそれが生まれ故郷となれば、誇らしいに違いない。

どこへいっても耳にする話題曲で瞬く間に全国的な存在感となったシンガーソングライターの瑛人さんも、地元横浜への愛を臆せずに語るひとりだ。瑛人さんが全面的な信頼を寄せるのは、ダイニングバーGRASSROOTSオーナーの佐間田伝伸さん。横浜における音楽カルチャーについて、まずは二人の出会いから聞かせてくれた。

必然の出会いは、「香水」ファーストステージへ

瑛人さん :はじめて佐間田さんに会ったのは3年くらい前ですよね。まだおれは大さん橋の手前にあるPENNY’S DINERっていうハンバーガーショップで働いてるときで、そこのオーナーが佐間田さんと親しかったり、ハンバーガー食べた後にGRASSROOTSに飲みに行くって言うお客さんたちも多かったりして、おれ自身はGRASSROOTSのことは知ってました。
あるときオーナーと、オーナーの先輩であるヨウイチさんていうアーティストと横浜で一緒に飲んでるときに、そのままGRASSROOTSに行くことになって紹介してもらえたんですよね。

佐間田さん: あの時もうだいぶ飲まされてから来たよね。

瑛人さんでも入った瞬間から「うわー、やっぱりめちゃくちゃイケてるお店だなー!」って思いました。

佐間田さん: おれも、音楽やってるって瑛人を紹介されて、まだ音も聞く前だったけどあのふたりの紹介なら間違いないと思って、じゃあライブしようかって、確かその場で日程も決めたんだよね。

瑛人さん: 尊敬してるオーナーたちに紹介されたので、佐間田さんはおれにとって”ボスのボス”みたいな感じで、緊張したのを覚えてます。(指で差しながら)あの席でしたよね。

佐間田さん: 確かに今よりも初々しかったかも。まさかいきなり全国的に売れるとは誰も思ってなかったときだったし。もちろん、初めて瑛人の歌を聞いたときはすごく良いと思ってたし、「香水」をはじめて聞かせてくれた時も「すっごいストレートだなぁ。おれたちにはない気持ちを歌にするなぁ」って思ったね。それだけ印象的なフレーズだったんだろうな。

瑛人さん: 「香水」をはじめて演奏したのはGRASSROOTSのライブでしたね。あの日のライブもすっごい盛り上がって、酔ったお客さんがステージ上がってきておれのマイクを取っちゃったりしたんだけど(笑)でもめちゃくちゃ楽しくて、おれらしいパーティーをさせてもらえました。

佐間田さん: あの時「香水」はバンド編成だったね。みんなすっごい楽しそうにしてたから「香水」だけが特別にウケてたというより、全体的に盛り上がってたけど、でもやっぱりひときわポップでずっと残るフレーズで、色んな人があの曲好きって言ってたのを覚えてる。でもまさか紅白に出るとは思ってなかったから、一時期は瑛人も悩んじゃって大変そうな時期もあったよな。

瑛人さん: 「香水」がたくさん聞いてもらえるようになって、自分のインスタとかにどんどん色んな連絡がきたりして、もうどうしたらいいのかわからない、って感じになってたんですよね。あの時もよくここに来て、カウンターで飲みながら佐間田さんに相談させてもらったり、相談できる人を紹介してもらったり。事務所を決める時も、佐間田さんの言葉に背中を押してもらいましたね。

佐間田さん: とにかく急だったもんな、展開が。おれもどうしたらいいのか正解がわからなかったから、GRASSROOTSに来てくれてる音楽関係の人にアドバイスしてもらったりしたけど。あんまり瑛人が悩んでる感じだったから、最初は「おれがマネージャーするよ」とか、オリジナルのバスつくって全国ツアーに出ようか、とかそういう夢みたいな話して笑わせたりしてたよね。

瑛人さん: 佐間田さんて、何かあるといつも会いに来たくなっちゃうんですよ。いい感じに酔い始めると、ちょうどいいタイミングでおれの好きな曲をさりげなく掛けてくれたりして。いつも見守ってくれてるなぁって思ってます。

佐間田さん: コロナ禍になってここでのライブは難しくなったけど、たまに飲みに来てくれるのは嬉しいよ。あと、瑛人の周りのミュージシャンが来てくれたり、うちのお客さんが瑛人と仕事してるって教えてくれたりするのも嬉しいなぁって。

瑛人さん: そうそう!おれがライブするときに参加してくれるミュージシャンがGRASSROOTSのTシャツ来てたり、よく飲みに行ってるって話してくれたりすることがあって、やっぱGRASSROOTSすごいなぁって思います。その瞬間、おれもすごい安心感で、気持ちが落ち着きますね。

佐間田さん: 横浜のみんなは、瑛人が売れたことをいい意味で「へー、あの瑛人が!」って驚いてるんだけど、それだけ瑛人のことを身近に思ってるんだよね。

佐間田さん: GRASSROOTSも、今は難しいけど、またライブができる日もくるとは思うので、それまで瑛人にはどんどん大きなところでやって欲しいと思うよ。新曲の歌詞もそうだけど、背伸びをしない、そのままの瑛人でさ。

瑛人さん: ありがとうございます。新曲「ピース オブ ケーク」は、小さな世界の存在と、それに対して大きな世界で生きることを歌詞に込めて書きました。「どこにいてももっとラフでいいよ」と伝えたくて、おれ自身の居場所のことも書こうと思って横浜をたくさん盛り込んだんです。横浜で生まれて、学校も遊びもバイトもぜんぶ横浜ですからね。好きな人もお世話になった人も圧倒的に横浜の人が多いし、横浜の風景とか、いろんな場所から無意識にでも影響を受けてると思ってます。もうすぐ24歳になるんですけど、「香水」をつくった22歳くらいまでは、横浜西口の交番前とか、北西口を出たあたりでたまに路上ライブとかもしてましたから。

佐間田さん: 横浜とかGRASSROOTSは、瑛人がいつでも戻ってこれる場所だよ。この先何があろうともさ。愛があるじゃない、ここのみんなには。

瑛人さん: ありますね、愛がある。本当嬉しいです。「お前、大丈夫か?」とか言ってもらえるのは横浜だけですからね。いつかおれ横浜で、瑛人フェスっていうのをやりたいんですよね。できれば8月8日か、もしくは8月10日に、フードはPENNY’S DINERとGRASSROOTSにお願いして。普段のGRASSROOTSがそうであるように、人と人がリンクしあうようなイベントを横浜で開催するのが夢です。あともう一つ、GRASSROOTSで定期的にライブやりたいな。

佐間田さん: また言ってる(笑)これからも今まで通り瑛人らしく、肩の力を抜いて続けてくれたらいいと思ってるよ。こうなれよ、ああなれよ、なんて思うことは何もないし、体には気をつけて、また来れる時にいつでも来てもらってさ。この関係は変わらないと思ってるから。

取材 岡のぞみ / 文 やなぎさわまどか

シンガーソングライター瑛人さん

神奈川県横浜生まれ横浜育ちの23歳。2020年の春、1年前にリリースした「香水」が数々の主要音楽チャートで1位を獲得。年末には「NHK紅白歌合戦」への出演を果たす。2021年1月1日に1stアルバム『すっからかん』をリリース。3月19日には映画「トムとジェリー」日本語吹替版主題歌である『ピース オブ ケーク』を配信リリース、精力的に活動を行う。
https://www.eitoofficial.com/

「GRASSROOTS」オーナー佐間田伝伸さん

横浜のダイニングバーGRASSROOTSオーナー。
http://grassroots.yokohama/